特報 西武HDの株主総会 サーベラス惨敗で見えた次の関心

特報 連載


保有株を巡る争奪戦に発展か

6月26日夕刻、前日に開催された西武ホールディングスの株主総会における議決権行使結果が公表された。

今回の総会は今年3月末時点での株主に議決権を行使する権利があるので、サーベラスが持つ議決権は当然TOB(株式公開買い付け)前の状態になる一方で、TOBの終了が5月31日だったので、TOBに応募した株主も議決権の行使が可能だった。

議決権行使結果、つまりどの議案でどのくらいの賛成票が入ったかについては、総議決権をベースに計算するのではなく、行使された、それも有効な議決権をベースに計算される。既に各種メディアでサーベラスの提案は過半数を獲得することはできなかったが、39%の賛成票を獲得したことが報道されている。

この39%という数字はあくまで行使された議決権を分母に持ってきて計算した結果の数字だが、サーベラスの保有割合がTOB後の35%で、サーベラス以外の株主のうち4%が賛同した、と読み手が勘違いしかねないような報道も実際出ている。

そこで、今日はサーベラス提案の議案に賛成票がどのくらい入ったのかを、行使議決権ベースではなく、総議決権ベースで計算し、サーベラスがほかの株主からどのくらいの賛成票を獲得できたのかを分析してみた。

結果はご覧の通り(別表)。まずは行使された議決権の割合だが、あれだけの大騒ぎがあっての総会でありながら、行使率は最高でも83.2%と極めて平凡だ。

議決権行使結果の開示が上場会社に義務付けされて以降の、西武ホールディングスの過去の議決権行使割合は、2010年3月期が最高、最低ともに82.8%、11年3月期が最高82.6%、最低82.4%、12年3月期が最高、最低ともに82.4%なので、今年は昨年比で0.6ポイントしか上がっていない。

無論、総会出席者の議決権行使票は、事前に内容証明郵便で議決権の行使内容を会社側に通知しておくという手続きをとっておかないと、基本的には無視される。総会前までに決議に必要な賛成票もしくは反対票が確保でき、当日分の票が決議を左右しない場合はこの手続きが許される。

会社法に規定があるこのルール、株式投資をやっている個人投資家でも知らない人は結構多かったのだが、11年3月期の東京電力の総会で、総会出席者の動議をことごとく会社側が無視し、挙手による賛否を問う場面でもちゃんと数えないことに株主が不満を訴えたため、広く一般にも知られるようになった。

戦う個人投資家・山口三尊氏も上場廃止以前からの西武の株主で、今回も早期上場や株主割当による新株発行を定款に盛り込むことを求める株主提案を行っており、山口氏やサーベラスは、事前に内容証明郵便で議決権行使内容を通知した上で総会に出席しているので、彼らの票は当然カウントされている。

今年の総会出席者は過去最高の940人だったそうだが、保有割合が多い株主はさすがにこのルールを知っているので、当日出席者分でカウントされなかった議決権は軽微とみていい。

そこで本題のサーベラス提案の獲得票だが、ご覧の通りわずか0.6-0.7%。この中にTOB応募者も含まれている可能性は捨てきれないので、ほかの株主はほとんど賛同しなかったということになる。

一般に外国人投資家の保有割合が多い上場会社だと、提案内容によってはかなりの賛成票を獲得できている。HOYAの総会では、取締役報酬の個別開示や白票を会社提案については賛成、株主提案については反対票とカウントすることの禁止などに、実に4割前後の賛成票が入っている。提案者本人の保有割合は1%程度なので、この賛成率はかなりのものといえる。

ただ、取締役選任の提案は最もほかの株主の賛成票を得られにくいので、サーベラスがもっと知恵を使っていれば、異なる結果を導き出せたかもしれない。

いずれにしてもサーベラスの惨敗は事前の下馬評通り。世間の関心はもはや別のところへ移っている。総会終了翌日、JR東日本が西武の依頼で4%の西武株取得を検討しながら見送った、という記事が日本経済新聞に掲載されたほか、その2日後にはサーベラスのTOB実施前にTPGキャピタルと西武が接触、サーベラス保有株を取得してもらえないか打診したということをロイターが報じた。

どちらの件も西武側はJR東日本とも、TPGとも、接触したこともなければ、そんな話を非公式にせよ幹部の誰かが持ち込まれた事実すらないと完全否定。一方、JR東日本は、問題の記事について否定も肯定もせず「ノーコメント」だ。

総会終了後は、西武とサーベラスの対立を千載一遇のチャンスと見たM&A(企業合併・買収)仲介の世界のプレーヤーたちが、サーベラス保有株を巡って積極的な活動を開始しているという。今後しばらくは、虚実織り交ぜ、ありとあらゆるファンドが“西武のホワイトナイト候補”としてメディアをにぎわすことになるのかもしれない。

サーベラス提案議案の賛成率
賛成率 議決権行使割合
行使議決権ベース 総議決権ベース
サーベラス以外
取締役選任   
五味廣文 39.76% 33.08% 0.66% 83.20%
白川祐司 39.78% 33.09% 0.67% 83.19%
江尻隆 39.77% 33.08% 0.66% 83.19%
宇野紘一 39.77% 33.08% 0.66% 83.20%
ジェームズ・ダンフォーズ・クエール 39.77% 33.08% 0.66% 83.19%
ジョン・W・スノー 39.76% 33.07% 0.65% 83.19%
ルイス・J・フォースター 39.76% 33.07% 0.65% 83.19%
スタン・ブラウン 39.76% 33.08% 0.66% 83.20%
監査役選任
村田守弘 39.84% 33.14% 0.72% 83.19%
志賀裕二 39.83% 33.14% 0.72% 83.20%
著者紹介 伊藤 歩(いとう あゆみ)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)
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