特報 日興コーディアル証券(当時)執行役員のインサイダー事件 金融業者尋問12月13日に予定

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横浜地裁で続く、執行役員は否認 キャッシュアウト銘柄が使われる

野村証券のインサイダー事件ですっかり忘れ去られている、日興コーディアル証券執行役員のインサイダー事件。今年5月、横浜の金融業者に未公表情報を提供し、この金融業者と共謀してインサイダー取引を行ったとして、日興コーディアルの執行役員Y氏が逮捕された。

検察側が起訴対象にした事案の銘柄は、バルス、マスプロ電工、バンテックの3件。すべてキャッシュアウト案件だ。市場価格に大幅なプレミアムが乗るキャッシュアウト情報は、直前に入手して該当銘柄を取得しておけば確実に膨大なもうけを手にできる。

現在、金融審議会でインサイダー取引規制の強化が議論されているが、今回の規制強化の目玉は、これまで情報を提供しただけで自らは取引で利益を得ていない情報提供者への罰則強化だ。特にインサイダー情報に接する機会が極めて多い証券会社の社員にはことのほか厳しい罰則を設けようとしている。逆に言えば、現行法では情報提供をしただけでは罪に問えない。共謀を立証するためには、少なくとも何らかの形で情報提供者が利益を得ている必要がある。このため、Y氏を起訴した横浜地検は、金融業者との共謀容疑という形をとっているのだが、インサイダーで情報提供者が共謀容疑で起訴されたのは今回が初。

住友銀行出身のY氏は金融業者とは旧知の間柄。銀行員時代から金融業者との間でトラブルも抱えていたので、検察側は直接的に金融業者からY氏に対して利益の提供はないものの、トラブルの穴埋めとして情報を提供して金融業者をもうけさせていたと想定。

日興コーディアル証券がSMBC傘下に入ったことを機に、Y氏が執行役員として日興コーディアルに派遣された2009年10月以降に金融業者が行った取引46銘柄をピックアップ。このうち31銘柄がY氏情報に基づく取引とみている。Y氏が参加した日興コーディアル社内の会議資料に、この31銘柄が掲載されていたからで、そのうち18銘柄がY氏の情報を基に金融業者が買い付けをし、中でも最ももうけが出た3銘柄を、起訴対象にしたようだ。

ちなみに、31銘柄の大半がキャッシュアウト案件で、中には結局キャッシュアウトを実施しなかった銘柄も含まれている。株価が低水準で放置されている銘柄でプレミアムを乗せるのがキャッシュアウトで少数株主を追い出す買収者の妙味だ。高いプレミアムを乗せても、元が安いので仕上がりの価格はそれでもまだかなり割安になる。

過去にキャッシュアウトを実施した銘柄には、TOB(株式公開買い付け)の公表日の3週間ほど前から何の材料もないのにいきなり急上昇を始めた銘柄は少なからずある。それだけキャッシュアウトはインサイダーの温床になりやすい。

ただ、今回Y氏は情報提供の事実すら全面否認している。検察側もこれまでのところ、いつ、どこでどのような手段で情報を伝達したかの具体的な証拠を確保しているわけではないようだ。

今年8月、日興コーディアルが社内調査委員会の調査結果を公表しているのだが、この調査はあくまで会社としての組織的関与がなかったことを証明する目的で行われたものなので、Y氏が情報提供を行ったかどうかは基本的に調査対象の本丸ではない扱いになっている。とはいえ、その社内調査報告書ですら、固定電話や会社貸与の携帯など、会社のツールを使って金融業者に連絡をとった事実はつかんでいない。Y氏はこの金融業者のところへ、社用車を使って09年10月から11年9月までの2年間に48回も通っており、本人も金融業者との間でトラブルがあったことや、その対応のために頻繁に金融業者の元へ通っていたことは認めているようだが、情報提供はしていないという主張らしい。

この事案、東京地検が事件を受け付けず、やむなく金融業者の住所地である横浜地検に受けてもらったという事情もあるようだ。

さらに、本件の被告側代理人弁護士は足利事件で一躍有名になった佐藤博史弁護士。対する横浜地検の刑事部長は山口幹生氏。足利事件の担当検察官である。佐藤弁護士としては当然戦闘モード全開になるだろうから、因縁の対決再び、といった面もあるだろう。

こうなると横浜地検の頼みの綱は金融業者氏。その金融業者の尋問が12月13日に予定されている。

著者紹介 伊藤 歩(いとう あゆみ)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)
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