特報 西武HDのTOB開始から10営業日が経過 不透明なサーベラスの真意

特報 連載


手腕問われる現経営陣

3月12日に筆頭株主サーベラスグループが西武ホールディングス株式のTOB(株式公開買い付け)を開始してから26日でちょうど10営業日目。

サーベラスが提出した公開買付届出書には「西武のコーポレートガバナンスや内部統制を強化することによって、株主や従業員、顧客、債権者などすべてのステークホルダーの利益を確保、向上させるためには現経営陣との協力関係を緊密にする必要があり、故に若干だけ株を買い増しするのであって、過半数を握って買収しようという意図はない」とある。

実際買付の下限は決めていないが、上限は1,367万2,700株。上限いっぱい買えても保有割合は36.44%にしかならない。

拒否権の3割を若干超えているだけの何とも中途半端な株数。現経営陣との協力関係を緊密にするためと言いながら、現経営陣の賛同を得ないままのTOB開始ではケンカを売っているようなものだろう。

サーベラスはTOB開始直前の時点で特別関係者の保有分を含めると1億1,089万株を保有している。発行済み株式総数に対する割合は29.49%だが、自己株を差し引いた議決権割合では32.42%。四季報や有価証券報告書の大株主一覧で確認できる保有割合である29.93%よりも若干多い。

西武は2004年11月の上場廃止以降も少数株主を追い出しておらず、現在も1万3,000人以上の株主がいる。このため有価証券報告書の提出義務もそのままだし、サーベラスが株を買い増ししようとすればTOBで買う必要がある。

既に多数の報道が出ているが、蜜月関係にあったはずの両者に対立軸が生じた原因は、再上場時の売出単価だ。現経営陣は1,200円を妥当と考え、サーベラスはこの価格に不満を持った。現状の西武の業容で1,200円なのであれば、経営改革を進めてもっと高い値段で売り出すべき、というのがサーベラスの主張らしい。

TOB届出書には、五味廣文元金融庁長官ら3名の取締役の追加選任を予定していることは書かれているが、このほかにサーベラスは西武ライオンズ球団の売却や赤字の秩父線の廃止、特急料金の引き上げなど、多少無理難題といえるような経営改革を求めているという報道が出ている。

この点について、サーベラス側は否定しているようだが、3月25日に報道機関向けに「話し合いの機会を持ちたいのに現経営陣側が応じてくれない」という内容のペーパーを出している。

だが、サーベラスは05年12月以降2人の取締役を派遣している。この8年間に西武が実施してきた、不動産事業の減損や西武運輸の切り離し、ホテル事業のテコ入れなどの経営改革は、すべてサーベラスの了承のもとで実施されてきたはずだ。

現経営陣にどういった経営改革を求めているのか、その具体的な内容の開示がないままTOBを始めてしまうあたりも中途半端だ。具体的にどんな内容の経営改革をサーベラスが求めているのか、株主が応募「する」「しない」の判断をする上で重要な情報だからだ。

価格についても、1,200円が不満と言いながらTOB価格はわずか200円乗っただけの1,400円というのでは、少数株主が応募意欲をかき立てられるのかどうかも疑問だ。少数株主としては、経営改革は上場後でも良いわけで、上場後も保有し続け、経営改革が進んで株価が上がればいい。税制が変わることを考えると、個人が大半の少数株主としては、自分が売り出すわけではないので、さっさと上場してほしいというのが本音だろう。

上場廃止当時、コクドの下に西武鉄道とプリンスがぶら下がっていた状態から、持株会社の下に西武鉄道とプリンスがぶら下がる形に再編をしたのが06年3月。その後、西武運輸を切り放し、10年3月期以降、売上高は大きく減ったが、不動産やホテルの減損はほぼ一巡したと言っていい。西武は今期の着地予想を、若干幅を持たせて開示しているので、1,200円ならPERは20倍-22倍。PBRは1.8倍-2倍程度になるはずだ。

日経225採用銘柄の平均予想PERは21倍、実績PBR(株価純資産倍率)は1.3倍。東証1部上場銘柄の平均予想PERは22倍で実績PBRは1.28倍なので、1,200円という金額はまずまずの水準と言える。

だが、サーベラスが首を縦に振らなければ再上場は実現しない。現経営陣の手腕が問われる。

西武鉄道から西武ホールディングスに向けての業績推移と財務データ

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著者紹介 伊藤 歩(いとう あゆみ)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)
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