特報 TOBのレアケース 議決権8割未達と東宝不で12件目

特報 連載


東宝不動産(8833) 日足

東宝不動産(8833) 日足

2月21日に終了した東宝不動産(8833)の公開買い付けは、応募総数990万株、獲得議決権割合が77.09%という記録的な低さにとどまるという結果に終わった。

2006年5月に会社法が施行され、キャッシュアウトが解禁になってからもうすぐ7年。この間に250社弱がキャッシュアウト目的のTOB(株式公開買い付け)を実施したが、TOBで9割以上の議決権を獲得できなかったケースはごく一部に留まる。中でも8割にすら届かないケースは別表の通り11件しかなかったので、東宝不動産は12件目の事例になったことになる。

シャルレのMBO(経営陣による買収)は、会社側がMBOに賛同表明をするに当たり、手続き上不正があった可能性を第三者委員会から指摘され、この結果買い付け資金を融資する予定だった三菱東京UFJ銀行が下りてしまったという特殊な事例だ。幻冬舎も対抗馬が現れたケースなので、今回のケースとは事情が異なる。旭テックは2回に分けてTOBを実施、9割に満たなかったのは買い付け単価が低い1回目のほうで、2回目は9割以上を獲得している。コージツは敵対的買収だったのに、獲得議決権件数では東宝不動産を上回っている。

今回は買収者である東宝がもともと59.07%の株式を保有しており、応募契約を締結していた阪急阪神ホールディングス及びH2Oリテイリングの保有株が6.9%、東宝のグループ会社11社とその役員の個人所有分がそれぞれ0.95%ずつ。ここまでを合計すると67.87%に達し、これ以外の応募割合はわずか9.22%だったことになるから、少数株主の応募割合は9.22%÷(100%-67.87%)=28.69%。

さらに、この応募をした少数株主の中に、東宝不動産の取引先といった、形式的には買収者の身内にはカウントされない“隠れた身内”が含まれていれば、実質的な少数株主応募率はさらに下がる。

TOB期間中、一貫して市場価格がTOB価格を上回っていたので、この結果は当然といえば当然。TOB終了直前になって、ハワイ籍のファンド・プロスペクト・アセット・マネージメント・インクが大量保有報告書を提出。5.43%を保有していることを明かにしたが、このファンドは「公開買い付け価格は明らかに安すぎるので、価格決定の申し立てをする」ことを早々に表明している。

親会社が完全子会社化を目指した日本レップのケースでは、TOB終了時点で82%の議決権を保有、少数株主の追い出し決議には十分な議決権を確保していたが、創業者グループが価格に対する不満を表明すると、予定していた臨時株主総会の開催を延期してしまった。臨時株主総会が開催されなければ少数株主の追い出し決議もされない。追い出し決議がされなければ価格決定の申し立てもできない。このため、日本レップの場合はほとんど流通する株式がない状態が約1年間続いた後、創業者グループと価格面で折り合いが付き、創業者グループ自身の株主提案によってキャッシュアウトが実施されて上場廃止になった。

今回東宝は予定通り完全子会社化を実施するとしており、TOB期間中に総会の基準日決定の告知を出している。5月24日開催の定時株主総会で少数株主の追い出しは決議されることになるだろう。買い取り価格決定の申し立ては株主総会までに株主になっておけば申し立てることが出来るからか、株価はTOB終了後もTOB価格を上回る水準で推移している。プロスペクト以外にも相当数の株主が価格決定の申し立てに踏み切る可能性が高い。資産規模に比べて収益力が低く、DCF法で算出する企業価値が、保有資産の処分価値に比べて著しく低い場合、裁判所がこれまで一顧だにしようとしなかった純資産価値に目を向けてくれるのかどうかも注目される。

ちなみに、自己株取得の形でTOB中のアムスクも市場価格がTOB価格を上回った日がある。東宝不動産ほど極端ではないが、210円のTOB価格に対し、2月22日に212円、2月25日に211円を付けているので、何らかの動きが出る可能性はあるだろう。

議決権獲得割合が8割未満の事例
証券コード 公開買付届出書提出日 TOB対象会社 上場市場 TOB実施後の議決権
9885 2008/9/22 シャルレ 大証2部 40.74%
7843 2010/11/1 幻冬舎 JASDAQ 58.17%
5606 2012/1/6 旭テック 東証2部 67.53%
8924 2010/11/1 リサ・パートナーズ 東証1部 69.47%
9652 2011/9/20 日本医療事務センター 東証2部 72.49%
4831 2009/4/8 オープンループ ヘラクレス 74.02%
3146 2012/1/31 らでぃっしゅぼーや JASDAQ 75.74%
9448 2010/12/3 インボイス 東証1部 76.69%
8833 2013/1/8 東宝不動産 東証1部 77.09%
9905 2011/7/22 コージツ JASDAQ 77.12%
5913 2009/5/19 松尾橋梁 東証1部 77.60%
6679 2011/8/11 サイレックス・テクノロジー JASDAQ 77.86%
著者紹介 伊藤 歩(いとう あゆみ)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)
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