深堀健二の兜町法律放談 取締役の関連当事者取引「シード事件」【後編】

兜町法律放談 連載


1 事実関係

前回確認した事実関係を要約すると、以下の通りとなります。

・当社A取締役は、80%ないし100%の株を保有し前代表を務めていたZ社に、当社からコンタクトレンズおよびケア用品(以下「本商品」といいます)を仕入れさせ、学生時代の後輩でZ社の後任社長に据えたQが1円出資で設立したY社を通じて、インターネット通販業者C社を含む販売先に対して販売した。

・Z社の当社からの仕入れ価格は、国内の当社販売子会社に適用される「特別価格」であり格安であった。

・Y社およびZ社は順調に業容を拡大し、スポットの取扱残高が7000万円にも達した。

・Y社はA取締役およびQに対して、役員報酬、交通費等の名目で直近5年あまりの間に2000万円以上の金員を交付した。

要するに、A取締役は、当社の「大株主の子息」「取締役」という地位を利用して当社から実質的には自分の支配するY、Zに当社から格安で商品を仕入れさせ、個人的な利益を得ていたという構図になります。

当社→Z社→Y社→市場

2 A取締役の責任

①競業避止義務違反

まず、当社は、インターネット通販会社に対して本商品を卸売販売していますので、Y社およびZ社のインターネット通販会社C社に対する卸売販売は、会社の「事業の部類に属する取引」に属し、競業行為に該当すると考えられます。

従って、A取締役は取締役会に報告し、承認を得る義務があったのにこれを得ませんでしたので、当社に対する競業避止義務に抵触します。

なお、この点についてはA取締役がY、Zの代表者ではないことから形式的には「競業」に該当しないと考える余地があります。

しかし、A取締役がZ社の株式の80%ないし100%を保有し、A取締役の差配の下でQにY社を設立させ、Y、Zの代表者に据えていたなどの事情からするとA取締役は両社の「事実上の主宰者」としてやはり責任を負うと考えるべきでしょう。

②利益相反取引

Z社は、当社から仕入れた本商品をY社にそのまま販売するだけですから、Z社が当社から購入する価格が安くなればY社がZ社から購入する価格が安くなる関係があり、Y社の利害はその大株主であるA取締役の利害と、ほぼ共通します。

従って一連の取引は実質的には「利益相反」取引に該当すると理解するのが常識的といえ、外部専門家検証委員会もそのように認定しています。

③任務懈怠責任

以上のとおり、A取締役は当社に対する義務違反行為が認められますので、会社に対して与えた損害を賠償する責任を負います。

その金額ですが、検証委員会は、競業避止義務違反については、「Y社の販売先に対する販売に当社は興味がない」ことを理由に当社の損害はない、利益相反取引についてもZ社との取引による当社の損害はないとしました。

その上で、関連当事者取引に該当することの報告を怠ったことにより、Z社に対する実際の販売価格、販売規模などを勘案した場合のほかの取引先と整合する本来あるべき価格との差額が損害を考える上で基本になると認定しました。

私としては、Y社、Z社ともに従業員はQのみであったという会社の実態からすれば、A取締役が紹介すれば、経費ゼロでC社等Y社の販売先に対して当社が直接販売することが可能であったと認めることができます。

従って、当社の損害額は、Y社の売上高からそれに対応する当社のZ社に対する販売額の差額だと考えることも十分可能だと思います。

A取締役が、当社の大株主であるビックカメラA氏の子息であることを考えると、当社従業員が特別価格を適用したことは責められませんし、当社の社長も調査委員会も、非常に気を遣って対応したことがうかがわれます。

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