深堀健二の兜町法律放談 取締役の関連当事者取引「シード事件」【前編】

兜町法律放談 連載


平成26年12月24日、コンタクトレンズで有名なシードが、いわゆる「関連当事者取引」を見過ごしていたとして、過年度開示の訂正および関係者の処分を行いました。

1 端緒は社長の気付き

特徴的なのが、事件の発覚したきっかけが、社長の気付きによることです。

すなわち、Z社との取引に関する与信限度額の変更申請の稟議(りんぎ)が回付された際に、与信残高が7,000万円を超える多額の販売先であるにも関わらず、Z社の社名に覚えがなかったことから、社長がZ社の属性を調査するように指示したのが端緒で発覚したのです。

2 判明した事実関係

それでは、調査の結果判明した事実は以下の通りです。

  • 当社の大株主であるP氏の子息であるA取締役は、Y社の発行済株式の80%ないし100%の株式を実質所有していた。
  • 平成19年5月、A取締役はY社を設立し平成25年3月までY社代表を務めた。
  • Q氏はA取締役の大学時代の後輩であり、平成20年にY社に入社し平成25年3月にA取締役に代わってY社代表に就任した。
  • A取締役は平成21年6月に当社取締役に就任した。
  • Q氏は平成21年9月、資本金1円でZ社を設立し、以来、従業員を持たずQ氏が一人で業務運営している。
  • Z社はY社の実質上の本店所在地である当社所有物件を本店所在地として登記されており、当社は同物件についてY社との間で賃貸借契約を締結している。
  • 平成22年9月、Z社が当社のコンタクトレンズを仕入れ、ネット上のショッピングモールで販売する取引についてA取締役・当社スタッフN係長・Q氏間で打ち合わせが実施された。同打ち合わせに先立ちA取締役はN係長に「ご配慮をお願いしたい」と発言した。
  • N係長は席上、Q氏がY社の従業員であり、かつZ社の代表であることを認識した。
  • N係長ら社内担当者はZ社が「A取締役と何らかの関係がある会社」であると認識していたことおよびA取締役が当社主要株主の子息であることをおもんぱかって、資本金1円、設立したばかりのZ社に対して与信調査もせずに、国内の販売子会社に対して適用される「特別価格」を適用することにした。
  • Z社は平成22年から当社からコンタクトレンズおよびケア用品を購入し、Y社に仕入れ価格と同額で転売、Y社を経由して市場に流通(当社→Z社→Y社→市場)させていた。
  • A取締役は平成25年中ごろにはZ社に対する販売価格が通常の取引先よりもかなり安いと認識した。
  • 当社とZ社の取引は、当社担当者の予算達成への思惑もあり拡大し、平成26年にはスポット取引残7,000万円に達した。
  • Y社はA取締役およびQ氏に対して、平成21年4月から平成26年9月までの間に合計2,123万円を出金している。
  • なおA取締役は当社取締役就任後も、Y社のために融資および債務保証を3,000万円ないし5,000万円程度の範囲で行っていた。

3 想定される問題点

ここまでの事実関係で、「A取締役が取締役の地位を利用してY社を介して不正な利益を得ている」可能性が高いことは理解いただけると思います。

それでは、前記事実関係を前提に、A取締役の競業避止義務違反、利益相反取引違反、善管注意義務・忠実義務違反があるのか、また、仮に義務違反行為が認められるとしても、何を基準に損害賠償請求できるのか、読者の皆さまも考えてみて下さい。

深堀健二氏プロフィール
八重洲総合法律事務所弁護士(証券アナリスト資格保有)。平成5年慶應義塾大学法学部法律学科卒、都市銀行入行、証券会社勤務を経て平成22年12月弁護士登録。
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