取材の現場から 相続税増税の副産物 「遺言信託」ビジネスに群がる信託銀行

取材の現場から 連載


利用者は吟味も必要

1月から相続税が増税。国は、団塊世代が持つ遺産で歳入不足を賄おうとしているのだろう。野村資本研究所の調査によれば、2030年までに相続資産額は少なくとも1,000兆円はあるという。これを狙って信託銀行は、「暦年贈与信託」など相続税節税サービスに力を入れている。さらに信託銀行は、「遺言信託」にも力を入れている。新聞やテレビではほとんど触れていないが、この遺言信託は信託にとって結構“おいしい”ビジネスなのだそうだ。

「遺言の執行業務は本来、弁護士の仕事だが、信託法3条を根拠に信託銀行が遺言をビジネスにし、日弁連も渋々認めている。しかし、はっきり言って弁護士に出す方がサービスもよく、安くなる。もちろん一部弁護士は暴利を取るが、ともかく、面倒な相続で信託銀行は役に立たないし、フィーも高めだ」(弁護士)。

みずほ(8411) 週足

みずほ(8411) 週足

象徴的なのは、相続がもめた場合。信託銀行はすぐ逃げる。みずほ信託(みずほフィナンシャルグループ・8411)のHPを見ると、小さな字で「遺言執行が著しく困難な場合は、遺言執行者への就職を辞退させていただくこともあります」とある。例えば前妻の子がいたりすると、遺産分割がもめる。そうなれば、弁護士にあらためて頼まねばならない。信託銀行が報酬を得て紛争事例を扱うと、弁護士法72条に抵触するからだ。結局、既に払った信託手数料や保管料が払い損になるという。

また「積極財産」の問題がある。遺言信託の報酬は、財産の額に応じた比率で決まるが、ここで言う財産は積極財産で、消極財産(借金)は含まない。遺産1億円・借金6,000万円の場合、1億円が報酬算定のベースとなる。弁護士なら4,000万円をベースとすることが多いという(そうでない弁護士もいる)。

まだいろいろあるが、結局、信託銀行にとって遺言信託は、楽な業務だけでフィーを得られるボロいビジネスという側面もあるわけだ。少なくとも弁護士からはそう見える。

遺言信託では今、三井住友(8316)三菱UFJ(8306)、みずほなどメガ系信託は、系列銀行に預金を移せば報酬を割り引くなどして、資産家の囲い込みを始めている。遺言信託をテコに、富裕層の預金を獲得しようというわけだ。メガ以外にも、千葉銀行(8331)のような地方銀行でも力を入れているところもある。また、野村信託銀行(野村HD・8604)が4月から遺言信託に参入。野村証券の顧客をターゲットにするという。そのための中途採用も行っている。(本紙1月26日付14面)

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