深堀健二の兜町法律放談 自炊代行サービス訴訟【前編】

兜町法律放談 連載


さて今月は、昨年10月に控訴審判決が出た、自炊代行サービス訴訟についてみていきたいと思います。

1 事案の概要

浅田次郎、大沢在昌、永井豪、林真理子、東野圭吾、弘兼憲史そして武論尊ら、日本を代表する作家達が、複数の自炊代行業者を相手取り、第三者から委託を受けて原告らの作品が印刷された書籍を電子的方法により複製することの禁止を求めた裁判です。

近年増加している自炊代行業者の中には、裁断した本をユーザーに返還しているものや、使い回された裁断本からのスキャンを受注するものがいること、さらにはネットオークション上には3000件もの裁断本が出品されていることから、「購入された1冊の書籍が1つの電子データに変換されただけ」とは到底言えず、無許諾の電子書籍を廉価に入手する手段として、裁断本の転売と自炊代行業者が利用されている、との問題意識が作家側にはありました。

他方、書籍の購入者自身がスキャンして電子データを端末に取り込む事自体は、「個人的に使用することを目的とするときにその使用する者が複製する」(著作権法30条1項)場合に該当し、「私的複製」として著作権法上許容されていますし、ユーザーも変換した電子データを流通させず、裁断本もスキャン後に間違いなく廃棄処分されるのであれば、「無許諾の電子書籍の廉価流通」という事態は発生しません。

また、自炊代行業者は、秘書や事務員のような「補助者」に過ぎず、ユーザー本人が複製しただけであるとの解釈も成り立つように思われます。

そこで、ユーザーが自炊代行業者を利用して書籍をスキャンすることが著作権法の許容する「私的複製」に該当するかどうかが問題となり、裁判所の判断に注目が集まりました。

2 東京地裁の判断

一審の東京地裁は、「有形的再製を実現するために、複数の段階からなる一連の行為が行われる場合があり、そのような場合には、有形的結果の発生に関与した複数の者のうち、誰を複製の主体とみるかという問題が生じる。」「この問題については、複製の実現における枢要な行為をした者は誰かという見地から検討するのが相当であり、枢要な行為およびその主体については、個々の事案において,複製の対象、方法、複製物への関与の内容、程度等の諸要素を考慮して判断するのが相当である」と過去の最高裁判例を引用し、自炊代行業者による複製が「その使用する者が複製する」といえるかを問題としました。

その上で、「電子ファイル化により有形的再製が完成するまでの利用者と法人被告らの関与の内容、程度等をみると、複製の対象となる書籍を法人被告らに送付するのは利用者であるが、その後の書籍の電子ファイル化という作業に関与しているのは専ら法人被告らであり、利用者は同作業には全く関与していない。」「本件における複製は、書籍を電子ファイル化するという点に特色があり、電子ファイル化の作業が複製における枢要な行為というべきであるところ、その枢要な行為をしているのは、法人被告らであって、利用者ではない。したがって、法人被告らを複製の主体と認めるのが相当である。」として、「その使用する者が複製する」との「私的複製」の要件を満たさないと判断しました。

さらに「利用者がその手足として他の者を利用して複製を行う場合に、『その使用する者が複製する』と評価できる場合もあるであろうが、そのためには、具体的事情の下において、手足とされるものの行為が複製のための枢要な行為であって、その枢要な行為が利用者の管理下にあるとみられることが必要である。」「法人被告らは利用者の手足として利用者の管理下で複製しているとみることはできない」として、「補助者」の構成についても徹底して否定しました。

次回は、一審判決に対する議論と控訴審判決を確認したいと思います。

深堀健二氏プロフィール
八重洲総合法律事務所弁護士(証券アナリスト資格保有)。平成5年慶應義塾大学法学部法律学科卒、都市銀行入行、証券会社勤務を経て平成22年12月弁護士登録。
戻る