【深層】を読む アナリスト投資判断の要注意点 機関投資家運用の特性を反映

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フルインベストメントの“罠”

年末が近づくとともに、株式市場もじりじりと上昇の度合いを強めている感がある。この先、衆議院総選挙というイベントがあるが、市場関係者の間では、「掉尾(とうび)の一振」への期待感が高まりつつあるのを感じざるを得ない。

株式市場は総選挙などの政治イベントに影響を受けることは確かだが、基本的には、景気と企業業績に左右される度合いが大きいのは間違いない。不景気な時にも好業績で上昇する銘柄もあるが、不景気な時は、それを見つけ出し、探し出すのが困難だ。一方、好況に沸く経済の中では、よほど下手をしない限り、全体の好景気に乗っていけば、それなりに業績を残すことができる。業界内で、より儲かっている企業と儲けそこなっている企業に分かれるから、株価のパフォーマンスも違ってくるのは仕方ないにしても、投資家として、それなりの利潤を得ることは難しくないだろう。現在は、比較的上向きの経済環境の中で、円安という環境下、上手くやっている企業群と、逆に、苦しむ企業群に分かれている展開との解釈が可能だ。投資家としては、当然、うまくやっている企業群を買い持ちし、苦しむところを売り持ちしてダブルで取りたい、との欲望に誘惑されるが、これはそれほど簡単ではない。

年金基金などの機関投資家は、巨大な資金を運用する事情もあって、数学・統計的な手法を駆使して、投資対象となる数百、数千の銘柄をプラス側、マイナス側に区分し、それぞれの銘柄にウェイト付けして投資するような手法を多用する。その場合、業種リスクを避けるがために、ある程度の業種別に分類して、業種内での各銘柄の位置付けを考えるケースが多い。もちろん、意識的に業種別のリスクを取る場合もあるが、前提としては、業種別のリスクを追わずに、個別銘柄のリスクを狙う、というやり方が多い。

証券会社アナリストの格付けも、基本的にはこの考え方に基づいており、同業種の中でプラス側の指標が多ければ「買い」レーティングになるし、逆ならば「売り」レーティングになる。そのため、明らかに不利な状況にある業種でも「買い」は存在するし、逆もしかりだ。この点が、業種別のリスクを考慮せずに対市場全体でのパフォーマンスを重視する個人投資家にとっては、誤解の元となることが多い。つまり、「買い」レーティングであっても、絶対値で株価の上昇を展望しているのではない場合が往々にしてある、ということだ。基準となる業種全体が1%下落した場合、当該銘柄の下落が0・7%にとどまれば、「買い」レーティングは大成功だったことになる。相対的に被害が軽減されたことになるからだ。

これは、年金基金の運用に携わるファンドマネージャーが抱える、「フルインベストメント」といわれる「委託した運用資金は全て対象とする種類の投資に回す」というようなルールの元で成立する考え方だ。運用資金を自由に現金にしたり、株式にしたりの選択肢がある個人投資家とは違い、彼らはどんな状況であれ、限りなく100%に近い金額を決められた投資に回すというルール上で運用している。多くの場合、運用指針には、「現金比率は5%未満」などといった縛りがある。だから、相場全体が下がると分かっていても、勝手に株式を売却して現金化することはルール上、許されないことが多い。その場合は、大きく下がりそうな銘柄を売却し、それほど下がりそうにない銘柄を同額程度買う、という手段を取ることになる。外資系証券などの主要顧客は機関投資家なので、アナリストの主眼もその方法にマッチする位置・方向性にある。これを知っておかないと、とんでもない誤解を生むことになるのだ。

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