深堀健二の兜町法律放談 エナリス事件と請負契約【後編】

兜町法律放談 連載


エナリス(6079)社は、請負契約に関する債権回収の件とは別に、「社内の与信管理体制等の内部統制の運用状況の問題」「会計処理に疑義のある取引」の存在を理由に外部の第三者調査委員会を設置したようですので、請負契約に関する未回収金についても事実関係が解明されることが期待されます。

さて、今回は、前回に続いて「請負契約の問題点」について考えてみたいと思います。

1 民法の想定する力関係

もっとも身近な契約である売買契約において、民法は「目的物に瑕疵(かし)」があって、買主が契約の目的を達することができない場合には、契約を解除できると規定しています。

瑕疵というのは、「一般的には備わっている、本来あるべき機能・品質・性能・状態が備わっていないこと」すなわち「欠陥」を意味しますので、欠陥により目的を達することのできない場合、買主は契約を解除し、代金の返還を受けることができます。

買った目的物に欠陥があって、目的を達することができないときに、「物を返すから代金を全額返せ」と請求できることに違和感を感じる方は少ないでしょう。

これに対して、請負契約では、売買契約と同様、目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的が達せない場合、注文者は、原則として契約の解除をすることができると規定しており、ここまでは売買契約と違いはありません。

しかし民法は「建物その他の土地の工作物についてはこの限りでない」と、家やビルの発注者は、建てさせた目的物に欠陥があって、目的を達成できないときであっても、契約を解除できないと規定しているのです。

その背景には、建築請負関係においては、請負人は発注者と比較して圧倒的に弱い立場にあるとの発想があります。

すなわち、民法の制定された1898年当時、建築請負といえば「裕福な金持ちである発注者と腕自慢の零細大工」といった構造があり、その構造を前提とすると、目的物に瑕疵があったとしても、発注者に代金支払義務を負わせないと、零細大工にとって酷な状況を生じるとの考慮があったのです。

2 力関係の変化

ところがその後、建築業者も法人化・大規模化が進み、建築請負における「発注者の方が請負人より強い」という力関係に変化が生じました。

とりわけ、個人による住宅建設が一般化した高度経済成長期以降、発注者は「裕福な金持ち」から「金も専門知識もないサラリーマン」に、請負人は「腕自慢の零細大工」から「資力も専門知識もある会社組織」に変化しました。

力関係の変化が一般化するのに合わせ、「欠陥工事をしても民法では解除されない」ことを背景にしたモラルハザード、すなわち請負人による手抜き工事が増加しました。

請負契約における「仕事の完成」とは、一般に用いられる「完成」とは異なり、「監理者の検査に合格したことまで要求されるものではなく、客観的にみて、全工程を終えたとみられる程度に仕事が行われていれば完成」と解されているため、相当程度の手直しや、いわゆる駄目まわりを残していたとしても 「仕事の完成」が認められるとされるのです。

従って、民法の規定通り、建物・そのほか土地の工作物について解除が認められないと、買主は不具合があっても解除・返金を請求できず、「瑕疵ではない」と強弁されると、裁判で勝訴しない限り、買主は代金支払い義務を負う一方、修復を請求することもできなかったのです。

しかし、それではあまりにも発注者にとって酷であるとして、建築業界の団体や立法府は、建築工事請負契約に関する標準約款や品確法の制定などによって、発注者の保護を厚くし、専門知識のない発注者が不当に不利益を被らないよう、「民法の穴」をふさごうとしてきたのです。

このように、法律の想定した力関係が変化し、法律の規定通りでは妥当な解決を図れなくなったときには、選挙を通じて政治の力で法律を改正したり、特別法を作ったりできるのが今の制度の素晴らしいところですね。

深堀健二氏プロフィール
八重洲総合法律事務所弁護士(証券アナリスト資格保有)。平成5年慶應義塾大学法学部法律学科卒、都市銀行入行、証券会社勤務を経て平成22年12月弁護士登録。
深堀健二氏プロフィール
八重洲総合法律事務所弁護士(証券アナリスト資格保有)。平成5年慶應義塾大学法学部法律学科卒、都市銀行入行、証券会社勤務を経て平成22年12月弁護士登録。
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