深堀健二の兜町法律放談 エナリス事件と請負契約【前編】

兜町法律放談 連載


東証マザーズ上場の株式会社エナリス(6079)が、同社が発注を受けた茨城県の発電施設の建設工事請負代金1億4,962万円の支払いを求めて、発注者を提訴したところ、今週に入り、逆に発注者から「債務不存在の確認」を求める訴訟を提起されたとの開示がありました。

また、今年3月、三菱重工業が大型客船の建設請負を巡り600億円に上る巨額の赤字を計上したことも話題になりました。

近時、請負契約は紛争になることの多い契約類型となっておりますので、今月は「請負」契約に関する問題点について検討してみたいと思います。

1 請負契約に基づく紛争

今回、エナリスが請負代金の支払請求訴訟を提起したところ、発注者から「請負契約が存在しない」として債務不存在確認訴訟を提起されていますが、このように「契約当事者が違う」という問題が起こることは稀(まれ)です。

ほとんどの紛争は、工事内容(仕様)の変更、工期の延長または原材料費・人件費の変動といった後発的事情変動に起因する「請負代金額の変更」を巡って争いになっています。

そもそも、請負契約は委任や雇用といった「役務提供型」の契約類型と位置づけられ、その本質的要素は「仕事の完成」を目的とすることであるとされています。

すなわち、委任や雇用とは異なり、請負人は特定の「仕事の完成」すなわち特定の成果・結果を出す義務を負い、発注者は請負人が「仕事を完成」させて初めて報酬支払義務を負うことになっています。

そのため、請負契約を締結する際には、発注者が完成すべき「仕事」を仕様書などによって特定し、請負人が見積金額を提示することを通じて、完成すべき「仕事」と「報酬金額」を決定するプロセスを経ます。

しかし、三菱重工の造船案件で報じられているように、発注者による膨大な仕様変更が行われたり、工期の延長によって請負人の労務費が著しく増加したり、為替や労働市場の変化などによって原材料費・労務費が著しく高騰したりするなど、請負代金を修正する必要が生じる場合は多いのです。

実は民法はこのような契約締結後の事情変動に関する規律を一切設けていませんので、発注者請負人間で請負代金の修正・変更についての合意成立が認定されない限り、請負代金の修正・変更は認められないのです。

また、発注者と請負人の関係は、発注者が圧倒的優位に立っていることが多く、請負契約が「請け負け」契約とも呼ばれるように、請負人が契約締結後の事情変動のリスクを負担せざるを得ない事件が多いのです。

2 「請け負け」しないために

もっとも、過去の日本社会においては、相互扶助、共存共栄といった文化背景の中、裁判所で争うよりは、発注者と請負人との間で、「他の工事を回すから今回は泣いてくれ」といったやりとりがなされ、赤字を請負人、下請負人に付け回し、別の案件で帳尻を合わせることが日常的に行われていました。

しかし、バブル崩壊以降、国内市場の低成長、縮小傾向が明確化し、多くの建設会社やプラント会社が海外案件を手がけるようになり、時期を前後して日本企業による海外での多額の損失事件が発生しました。

その背景には、後発的な事情変動時におけるリスク管理の甘さがあったようです。すなわち、日本国内で事業展開していたときと同様に、仕様変更や工期延長について、あうんの呼吸で「払ってもらえるだろう」と期待して工事を終えたところ、「金額変更の確認書面の交付」など、契約上定められた手続的要件を満たしていなかったために発注者から支払いを拒絶されたり、そもそも契約書上「金額変更」が全く認められない契約になっていたりしたのだと思います。

海外では契約書に記載されていない「口約束」は一切効力がないとされることも多いですから、契約書で後発的な事情変更に関するリスク分担がどうなっているのか、手続き的要件がどうなっているのかをしっかりと確認することが「請け負け」しないための最低限の作法だと思います。

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