特報 エナリス株価急落の材料 求められる凛としたIR対応

特報 連載


金融機関はどこ?

10月24日、電力需要家向けコンサルのエナリス(6079・東マ)の株価が急落した。前日終値は1,090円、売買高は25万2,700株だったが、この日の売買高はその50倍以上の1,435万株に膨らみ、ストップ安の790円のまま取引を終えた。

1日の売買高が1,000万株の大台に乗ったのは、昨年10月の上場からの2カ月間を除くとこれで4回目。1回目は今年1月で、都知事選の論点に脱原発が浮上したことが材料になった。1月16日に付けた高値2,585円が、上場来の最高値だ。

エナリス(6079) 日足

エナリス(6079) 日足

2回目は今年2月。子会社の買収と同時に、買収子会社分の業績を上乗せし、営業利益を従来予想から倍増させる上方修正を発表したことが材料になった。

3回目は今年6月。電力小売りを2016年に全面自由化する電気事業法改正案が参議院本会議で可決したことが材料だ。過去3回は株価が高騰したが、今回は大幅な下落。

翌営業日の27日も下落が続き、上場来最安値の699円を記録したが、終値は762円まで戻した。ただこれでもまだ前日比28円安。本稿を執筆している28日午前11時半時点では815円まで戻っているが動きは鈍い。

今回の急落の原因は、『東京アウトローズ』というWebサイト。10月23日の取引終了後の17時15分にアップされた記事で、10億円もの売掛金残高があるテクノ・ラボなる会社に実態がないと報じた。東京アウトローズは翌24日以降も断続的にエナリス関連の続報を掲載している。

東京アウトローズは02年に配信を開始したWeb媒体で、当初はジャーナリストの山岡俊介氏も参加していたが、方向性の違いから離脱、山岡氏は『ストレイドッグ』を立ち上げている。

東京アウトローズは配信開始から10年以上になるが、何度か活動を停止している時期があり、直近では13年の夏から1年ほどの空白期間を経て、今年7月に活動を再開している。

基本的にボロ銘柄、事件銘柄の細かいフォローが中心のゲリラ的な株サイトだ。

エナリス側は、24日19時20分にTD-netに反論コメントを開示しているのだが、この対応はあまりにも遅すぎると言わざるを得ない。そもそも東京アウトローズの記事配信から丸1日が経過している。本来なら24日の取引開始前にコメントは出すべきだ。東京アウトローズの記事を見る限り、事前に取材も入れている。一晩あれば準備はできたはずだ。

ゲリラサイトの配信記事だから株価への影響はないと考えていたとしても、株価が動いた時点で反論コメントを出すべきだ。

反論コメントの中味は、「テクノ・ラボへの発電設備売却契約は6月に解除済みで、既に別の売却先へ転売済み。代金は12月に入金になるから心配ない」というもの。

エナリスの14年12月期第2四半期末時点、つまり今年6月末時点の売掛金残高は59億円あるが、このうち10億円相当の売掛先が、テクノ・ラボから別のところへ変更になったという意味に読める。

ただ、気になるのは、その新たな売掛先が、「東証一部上場の金融機関」だという点だ。金融機関とは、銀行や信金信組といった預金取扱機関、証券会社、それに保険会社のみ。ノンバンクは金融機関とは言わない。東証一部だというから、銀行か証券会社、保険会社ということになるのだが、金融機関が再転売先の間に立つ、しかもただ口を利くというのではなく、自ら購入するというのはどうにも解せない。売掛債権が銀行から担保に取られていて、それを強制執行されたというのならわかるが、リリースには確かに「発電設備を10億円で販売した」とある。

用語の使い間違いをしているのではないかと思い、同社に問い合わせたところ、「リリースに書いてあることが開示できるすべて」(広報)だそうで、筆者の疑問には一切答えてもらえなかった。この対応も、これだけ株価が急落している割にはずいぶん強気だ。少しでもメディアを味方につけようとするのが危機対応の王道だろう。

この会社、急成長中の会社なので、会社公表値の業績予想を達成できるのかどうかは、着地してみないと分からないが、10億円という金額は上期末時点の利益剰余金残高に匹敵するだけに、この会社にとって決して軽い金額ではない。

この会社の株主は、実に82%が個人。創業一族の保有分が少なくとも54%あるにせよ、一般の個人株主が一斉に売ったということなのだろう。ゲリラサイトの記事がここまで市場を動かすというのも珍しいが、会社側の対応が強気であることも、影響が長引いている原因の1つかもしれない。

■エナリスの業績推移と株価指標
売上高 営業
利益
経常
利益
当期
純利益
総資産 有利子
負債
純資産 自己資本
比率
(%)
期末
株価
現預金 売掛債権 利益
剰余金
09/12 21 0 0 0 18 11 63.7
10/12 31 1 2 1 19 13 68.8
11/12 1,480 321 331 263 913 333 36.5
12/12 5,103 520 519 411 2,011 346 445 608 761 575 37.7
13/12 10,177 740 681 423 6,056 1,251 3,334 1,580 2,642 1,003 42.3 1,765
3,487 475 448 295 3,428 259 752 1,596 1,057 870 30.8
6,690 265 233 128 6,056 1,251 3,334 1,580 2,642 1,003 42.3 1,765
14/12
43,433 2,204 2,204 1,269
12,446 478 421 206 17,328 4,277 5,935 3,150 9,524 1,209 53.6 1,711

30,987 1,726 1,783 1,063
※金額の単位は株価、それ以外は百万円。
著者紹介 伊藤 歩(いとう あゆみ)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)
戻る