深堀健二の兜町法律放談 青色発光ダイオード相当対価請求事件【前編】

兜町法律放談 連載


さて、ノーベル賞受賞は大変喜ばしい話題ですが、かつて、受賞者の一人である中村修二教授が、「窒素化合物半導体結晶膜の成長方法」に関する発明について、日亜化学を相手に訴訟を提起し、発明の対価として200億円の支払いが認められた裁判がありました。

平成16年1月当時、従業員に対する200億円の支払いが認められた判決は極めて衝撃的で、控訴審において8億4,300万円を支払う旨の和解が成立した後も、同様の職務発明の対価を巡って、多くの裁判が起こり、わが国における職務発明の扱いについて一石を投じることになりました。

そこで今回は、どのような論理で上記一審裁判所が200億円の請求を認めたのか、検討してみたいと思います。

1 特許を受ける権利の承継

本件ではまず、特許を受ける権利が会社に承継されたかが問題となりました。

わが国の職務発明制度においては、職務発明は、当然に使用者(会社)に帰属するわけではなく発明をした従業者に帰属し、使用者は「契約、勤務規則その他の定め」によって当該従業者から職務発明を承継することができるとされています。

そして、「職務発明」に該当するためには(1)従業者等が(2)性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ(3)発明をするに至った行為がその使用者等における従業者等の現在または過去の職務に属すること、が必要とされます。

そこで原告は、社長の命令に反して行った研究から生み出された発明であって職務発明ではない、しかも特許を受ける権利を承継する契約や就業規則がない以上、会社に承継されていないと主張しました。

しかし裁判所は、原告が、勤務時間中に会社施設内において会社の設備を用い、会社の従業員の労力等も用いて発明した以上、職務発明に該当するのは妨げられない、特許を受ける権利は会社の社内規定ないし黙示の契約等によっても会社に承継された旨判示しました。

2 相当対価の算定方法

次に、特許を受ける権利を会社に承継した場合の対価の算定方法が争点となりました。

争点は多岐にわたりましたが、裁判所は概要以下の根拠に基づき、対価は600億円を下らないと判示しました。

(1)相当対価は「使用者が当該発明に関する権利を承継することによって受けるべき利益」(特許法35条1項)であるから、当該発明を実施する権利を「独占できる利益」に、当該発明がされる経緯において発明者が果たした役割を貢献度として数値化し乗じた金額である

(2)本件発明に基づく製品の、過年度売上高と、特許期限満了時までの将来の予想市場規模に会社の市場占有率を乗じた会社の予想売上高の現在価値との合計は1兆2,086億円である

(3)被告が競業会社に特許権の実施を許諾していれば少なくとも売り上げの2分の1にあたる製品は競業会社により販売されていたと認められ、その場合の特許実施料率は販売額の20%を下らない

(4)以上によれば、会社の「独占できる利益」は1兆2,086億円×1/2×20%=1,208億円である

(5)本件は、大企業において、ほかの技術者の高度な知見ないし実験能力に基づく指導や援助に支えられて発明をしたような事例とは全く異なり、小企業の貧弱な研究環境の下で、従業員発明者が個人的能力と独創的な発想により、競業会社をはじめとする世界中の研究機関に先んじて、産業界待望の世界的発明を成し遂げたという、職務発明としては全く稀有(けう)な事例である。このような本件の特殊事情にかんがみれば、本件特許発明について、原告の貢献度は少なくとも50%を下回らない

(6)よって、相当対価は約1,208億円×50%=約604億円である

以上の通り、一審判決は中村教授による発明を最大限に評価しました。あらためて、胸の熱くなる判決だと思います。

次回は、この一審判決に対するさまざまな意見や、控訴審における経緯などを振り返ってみたいと思います。

深堀健二氏プロフィール
八重洲総合法律事務所弁護士(証券アナリスト資格保有)。平成5年慶應義塾大学法学部法律学科卒、都市銀行入行、証券会社勤務を経て平成22年12月弁護士登録。
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