深堀健二の兜町法律放談 兜町法律放談 雪国まいたけ事件【後編】

兜町法律放談 連載


平成25年11月、雪国まいたけ社における不正会計事件が明らかとなりましたが、調査によると、平成24年4月に、同社監査役会から「会計処理が不適切である」との指摘を受けていたにもかかわらず、同社経営陣は全く是正することをしませんでした。そこで今回は、一般的にはあまり知られていない、監査役の役割についてご紹介したいと思います。

1 監査役の権限について

監査役の職務は、上場企業では通常「取締役の職務執行の監査」とされます。この点、取締役会も個々の取締役の職務執行を監督する職責を負っていますが、取締役同士のなれ合いや代表取締役の強大な影響力により、取締役会の監督機能が無力化される懸念があります。そこで、会社の業務執行から独立した者に業務執行監査を行わせるために設けられた機関が監査役なのです。

監査役の監査の範囲は、職務執行の「適法性」には及ぶが「妥当性」には及ばないと説明されます。「適法性」の判断は比較的明確ですが、「妥当性」の判断は、取締役の裁量の範囲が広いため不明確です。そのため、監査役に「妥当性」監査の権限を与えることは、監査役に対して、業務執行に自分の意見を反映させることを求めるに等しいといえます。そこで、業務執行から独立した者に監査させるという監査役制度の趣旨を貫くために、監査範囲は適法性監査に限定されているのです。

そして、監査役は、職務執行監査を全うするために、自社・子会社の業務財産の状況の調査および報告聴取権限を持ち、取締役の違法行為を発見した場合には自ら差し止め、または責任追及のために会社を代表して訴えを提起するなど、単独で是正を求めることができるのです。

2 監査役の選任について

このように取締役の職務執行監査のために強力な権限を有する監査役ですが、代表取締役の強い影響力、とりわけ人事権を背景として、代表取締役の意に沿わない監査役に不利益が生じるとなると、監査役は委縮してしまい、取締役に対する有効な監査ができなくなります。

そこで会社法は、取締役が監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するためには監査役会の同意を必要としました。

これにより、代表取締役が、任期満了を迎えた監査役の再任を検討する際に、任期中、意に沿わなかった者を外して監査役候補を選定したところで、監査役会の同意を得ることができなければ、当該監査役選任議案を総会に上程することができなくなったのです。

3 監査報告による株主への報告

さらに監査役は、取締役の職務の執行に関し、不正の行為または法令もしくは定款に違反する重大な事実があったときは、監査報告に、その事実を記載しなければなりません。近年、いわゆる「監査役の乱」として、監査報告に取締役の職務執行が「相当ではない」などの記載をすることで、取締役の職務執行の違法性を指摘する事例が出てきています。

いわゆる「サラリーマン社長型」の特定の支配株主が存在しない企業の場合、「監査役の乱」の影響は大きく、通常は「不相当」と指摘された取締役は、監査役との間で、どちらかが退任「刺し違え」になります。

他方、「オーナー社長型」の創業家などの特定の支配株主が存在し、代表取締役と支配株主が一体の場合には、「監査役の乱」を起こしたところで、通常は人事案に関する総会で支配株主側が勝利するのは明らかなので、その是正の効果は限定的です。

雪国まいたけの場合、特定の支配株主が存在する会社ですから、普通なら「監査役の乱」を起こしたところで、刺し違えに持ち込むのは無理でした。しかし、本件では会社が不特定多数の株主を有する上場企業であることに加え、「監査役会の指摘を無視」「創業家を頂点とした組織的不正会計」の事実を、退任した取締役が告発したことから、「極めて重大な問題」と理解され、抜本的な経営体制の見直しを余儀なくされました。

監査役の指摘を、当時の取締役が真摯(しんし)に受け止めていれば、このような不祥事には発展しなかったのではないかと悔やまれるところです。

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