深堀健二の兜町法律放談 経営判断の原則について【後編】

兜町法律放談 連載


今回は、前回に続いて取締役の責任に関する「経営判断の原則」について、近時裁判例「福岡魚市場高裁判決のケース」を確認したいと思います。

1.事案の概要

P社は水産物等の販売受託、輸出入を業とする会社であり、S社はP社の100%子会社として、水産加工食品の開発生産販売を行う会社であるところ、S社において「グルグル回し取引」と呼ばれる一種の循環取引が行われたこと義務違反等に基いて、P社の株主が、P社の取締役Y1、Y2、Y3に対して、P社への損害賠償を求める株主代表訴訟を提起した事件。

2.事実関係

平成14年ごろから、S社ではグルグル回し取引が行われており、同取引は、繰り返す度に商品在庫の帳簿価格が上がる一方、含み損が累積されることになる取引であった。

同年ころ、S社の在庫および借入金が大幅に増大したため、S社取締役会において、S社役員を兼務していたY1らは改善を要請する発言をした。また、P社の在庫も大幅に増加したことから、P社の監査を行った公認会計士から子会社を含めて在庫管理を適切に行うよう指導が行われた。

平成15年3月、グルグル回し取引の相手方であった甲社に対し、P社は継続的取引契約に基づく一切の債務について極度額の定めのない連帯保証契約を締結したが、この際にP社取締役会でS社と甲社との間の取引額の確認等は行われなかった。

平成15年12月、S社内部からの指摘を契機に、Y1の指示によりS社の在庫についての調査委員会が立ち上げられた。同委員会は、S社担当者からの聴き取り調査等を行ったが、契約書、覚書、帳簿類および棚卸しの一覧表など具体的な書類を確認せず、平成16年3月、S社の在庫、売掛金の含み損が13億7829万円であるとする調査報告書を作成した。

その後、P社はS社に対して再建資金として19億円あまりを貸し付けたが、S社の実際の含み損が22億円を超えることが明らかになるなど、処理は迷走し、最終的にはP社はS社に対して15億円を超える債権放棄、3億3000万円の新規貸し付けを現物出資に切り替えるなどの処理を余儀なくされた。

3.裁判所の判断

福岡高裁は、まず、少なくとも平成14年11月に会計士の指摘を受けた時点で、具体的かつ詳細な調査を行うべきであったとしてY1らの監視義務違反を認めました。

その上で、連帯保証契約について「提供された資料のみを検討しただけで詳細な調査や検討を行うことなく、安易に極度額の定めのない本件連帯保証契約を締結した」として、経営判断の過程において忠実義務及び善管注意義務違反があったとしました。

また、貸付金の実行について「本件調査委員会は、本件調査報告書の再検討を求められるや、同報告書が提出されてからわずか約2カ月後にはS社の特別損失額を約1億円も上方修正する修正案を提出したことからすれば、Y1らは本件調査委員会による調査結果の信用性にも一定の疑問を抱くべきであった」「にもかかわらず、Y1らが構成するP社の取締役会は、本件調査報告書の信用性について、具体的な調査方法を確認するなどといった検証を何らすることなく、その調査結果を前提として本件貸付を行った」として経営判断過程における忠実義務違反及び善管注意義務違反を肯定しました。

以上のように、福岡魚市場事件では従来からの裁判所による「経営判断の原則」の枠組みに従いつつ、情報収集(調査・検討)に落ち度があった、判断過程に不合理さがあったとして、取締役の責任が肯定されています。

従って、「経営判断の原則があるから取締役の責任追及は不可能」と諦めること無く株主は責任追及すべきでしょうし、取締役も安心すべきではなく、「おかしい」と感じたら調査を尽くすべき、ということでしょう。

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