特報 キングジム ヒット商品創造企業

特報 連載


今度は「デジタル耳栓」

オフィス事務用品でおなじみのキングジム(7962)が、8月1日、2014年6月期の決算を公表した。売上高は前年比4.7%増の306億円だったが、営業利益は前年比1.6倍。文具事務用品部門の営業利益が前年比で倍増したことが効いたようだ。

14年6月期のキングジムの連結売上高のうち、文具事務用品部門の売上高は全体の83%にあたる257億円で、残る17%が家具や雑貨を扱うライフスタイル雑貨部門。14年6月期はライフスタイル雑貨部門も売上高を前年比25%ほど伸ばしている。

一方、利益貢献度はというと、14年6月期は文具事務用品が8.6億円で、ライフスタイル雑貨が2.3億円だったが、その前の13年6月期は文具事務用品が3.9億円でライフスタイル雑貨が2億円。

キングジム(7962) 週足

キングジム(7962) 週足

決算発表の翌日付の日本経済新聞が、決算トークのコーナーで経常利益が前期比49%増となった要因の一つについて、同社の専務が「デジタル耳栓」のヒットがあったというコメントを載せていたことを記憶している読者もいるだろう。

このデジタル耳栓とは、キングジムが今年3月に発売した製品で、空調音などの騒音はカットするけれど、人の呼びかけ声は聞き取れるというスグレもの。「イヤホンに内蔵された小型マイクで周囲の環境音を吸音し、その逆位相の音を出して騒音を打ち消す」と同社HPの製品説明にはある。

飛行機や新幹線などの乗り物の中で使えそう、ということは容易に想像がつくが、実際には印刷工場の作業員向けに伸びるといった、作った側が想定していなかった需要を取り込んだらしい。1個当たり4,980円で、重量は33gと軽い。大きさは6.4cm四方で厚みは1.4cm。持ち運びにも便利そうだ。個人として買うには、価格は少々微妙ではあるが、業務用ならリーズナブルという判断を得られそうな気がする。

このキングジムという会社、HPの製品群をのぞいてみると、実にユニークな製品を世の中に送り出していることが分かる。

おなじみのテプラもこの会社のロングセラー商品だし、「カメラ付きマウス」はその名の通り、マウスにカメラが付いていて、その場でマウス撮影した画像がすぐにパソコンに取り込めてメールできてしまう。ただしお値段は1個4,000円。これも個人で買うには微妙な金額だ。

マウスにスキャナがついた「マウス型スキャナ」というのもあり、こちらは8,000円。新聞や雑誌、会議資料の一部分を切り抜いてその場でデータ化できるというのは、「こんなものがあったら便利」という、人の心理をくすぐる作りだが、こちらはお値段は8,000円。

さらに、名刺よりも二回りほど大きいモニターがスキャナになっていて、スキャナに名刺を読み取らせると、名刺5,000枚をストックできて、ヨコについているダイヤルをくるくる回して検索できるという、「めっくる」。ネーミングがおそろしく分かりやすいし、あったら便利そうだが、お値段は1台2万7,000円。

画面タッチで起動し、表面に専用のタッチペンでメモると、99枚のメモを自動保存してくれるという「マメモ」は1台6,279円。

どれもこれも、あったらいいなと想えるユニークなものばかりなのだが、いかんせんお値段が高い。大ヒット商品となった「ショットノート」は、専用のメモ用紙に書いた手書きのメモを、スマホなどで撮影すると即座にデータ化してスマートフォン(スマホ)に取り込めるスグレもの。大ヒットとなった決め手はやはり値段だろう。アプリは無料ダウンロードできるし、専用のメモ帳は一番小さい11.5cm×7.7cmのものはわずか380円。ハードがユーザー手持ちのスマホで済む点が、ほかの商品と決定的に違う点だろう。

決算トークでは同社専務が「かつてのように経常利益で20億円台を稼げる兆しが見えてきた」とも発言している。

下の表は00年6月期以降の同社の連結業績推移を集計したものだ。リーマン・ショック直前の08年6月期までは18億円の営業利益、経常利益を稼げていたが、リーマン・ショック後は営業利益が半減してしまった。売上高はさほど落ちていないように見えるかもしれないが、08年6月期まではほぼ文具事務用品だけでこの数字を稼ぎ出していた。だが、09年以降は買収した会社が稼ぎ出すライフスタイル雑貨事業が収益を下支えしている。文具事務用品の売上高は、リーマン・ショックを境に、300億円規模から一気に50億円減って250億円規模に落ちこみ、そのまま現在に至っている。

配当プラス優待も秀逸

なかなか「かつてのよう」な水準の回復は難しそうだが、実はこの会社、毎年6月になると売買高が大きく膨らむ。期末近くになると優待狙いの買いが入るのだ。

優待は1単位(100株)以上で2,500円相当の自社製品。10単位(1,000株)以上だと3,500円相当の自社製品である。配当はほぼ安定配当なので、7万円程度の購入代金で、2,500円相当の優待プラス1,400円の配当、つまり優待コミで3,900円のリターンを得られる。利回りにして5.5%。しかもわずか1カ月足らずでのリターンなので、結構おいしい。

機関投資家にはハナで笑われそうだが、個人投資家にとっては楽しい銘柄と言えそうだ。

キングジムの業績推移
売上高 営業
利益
経常
利益
当期
純利益
総資産 純資産 自己資本比率 配当 期末
株価
PER PBR 配当
性向
00/6 35,417 2,597 2,548 1,156 29,216 17,992 61.6% 14.0 650 9.12 0.59 19.6%
01/6 34,657 2,865 2,938 1,510 29,092 18,933 65.1% 20.0 700 7.52 0.60 21.5%
02/6 32,220 1,764 1,872 △946 29,178 17,631 60.4% 16.0 609 0.56
03/6 31,517 1,785 1,736 687 17,922 18,037 64.6% 15.0 536 13.07 0.48 36.6%
04/6 31,064 1,888 1,882 931 27,512 18,234 66.3% 20.0 1,078 18.76 0.91 34.8%
05/6 30,683 2,099 2,127 1,305 28,685 19,214 67.0% 13.0 711 17.11 1.14 31.3%
06/6 30,299 2,088 2,158 1,083 27,564 20,452 73.4% 20.0 1,192 33.84 1.83 56.8%
07/6 30,395 1,762 1,859 1,058 27,441 21,135 76.0% 20.0 916 26.89 1.37 58.7%
08/6 30,166 1,827 1,861 1,065 28,771 17,907 61.4% 14.0 849 24.19 1.33 39.9%
09/6 29,291 902 810 △1,014 25,674 16,205 62.1% 14.0 729 1.26
10/6 28,433 842 763 416 24,976 16,281 64.1% 14.0 693 45.99 1.20 92.9%
11/6 29,595 927 825 517 24,088 16,011 65.5% 14.0 625 33.40 1.10 74.8%
12/6 29,953 1,010 1,003 613 23,962 16,371 67.4% 14.0 629 28.37 1.08 63.1%
13/6 29,284 661 800 538 24,381 17,074 69.0% 14.0 717 36.86 1.18 72.0%
14/6 30,684 1,113 1,194 868 28,268 18,308 63.8% 14.0 744 23.95 1.17 45.1%
15/6予 34,400 1,400 1,400 870 14.0 45.7%
著者紹介 伊藤 歩(いとう あゆみ)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)
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