特報 東証がライツオファリングに関する報告書

特報 連載


「赤字続きなのに財務良好」な企業に対する判断は…

7月25日、東京証券取引所の上場制度整備懇談会が、ライツオファリングに関する報告書を公表した。前日の日本経済新聞朝刊が報じていた内容通り、ノンコミットメント型ライツオファリングに、一定の規制をかけるというものだ。

ライツオファリングの特徴は、新株予約権を上場する点にある。既存株主に新株予約権を割り当て、権利行使をしない既存株主は市場で売却できるわけだが、最後まで権利行使されない新株予約権を、証券会社が引き受けてすべて権利行使するのがコミットメント型。証券会社の引き受けが付かないものがノンコミットメント型である。

ノンコミットメント型のライツオファリングが、崖っぷち企業の調達手段になっているのではないかという問題意識の下、東証の上場制度整備懇談会が、ノンコミットメント型ライツオファリングに何らかの規制をかける方向で検討を重ねていたことは本紙6月25日で報じた通りだが、今回公表された内容は、実務家の予想を上回る、かなり厳しい内容になっている。

具体的には、証券会社の引き受け審査に準じる審査を通過するか、株主総会決議を採ることで、増資の合理性を評価するプロセスを導入するというのが1点。そしてもう1点が、新株予約権を上場する以上、一定の業績基準を求めるべき、とした点だ。

証券会社の引き受け審査に準じる手続きについては、さほど非現実的ではなく、ライツオファリングの実施に積極的な一部の証券会社が受ける可能性があるし、株主総会決議を経るというのはあるべき姿でもあるし、実務家の間でも想定の範囲内だろう。

ただ、業績基準を入れるとなると、ノンコミットメント型ライツオファリングを実施する企業はおそらくいなくなるだろう。ノンコミットメント型ライツオファリングを選択する会社にとって、ほかの調達手段といえば、高い希薄化率を伴う第三者割当による新株予約権発行くらいしかない。ノンコミットメント型の利用がなくなる一方で、高希薄化率の第三者割当が増えるだけになるだろう。

一方、コミットメント型が実施できるくらいなら公募も可能なので、業績基準を入れた瞬間に、日本ではライツオファリングは“無用の長物”状態になる可能性が高い。高希薄化率対策として、当局が旗振り役となって導入にこぎ着けたライツオファリングを、自らの手で無用の長物化する決断を、当局が下せるのかどうか甚だ疑問だ。

くしくもこの報告書の公表3日前の7月22日、26例目のライツオファリング実施が発表になった。発行体は創薬ベンチャーのアンジェスMG(4563・東マ)。ノンコミットメント型で調達総額は100%権利行使される前提で約91億円。新株予約権は普通株1株に対し1個の割り当てで、新株予約権1コにつき普通株1株買えるので、希薄化率は最大で100%。

注目の権利行使価格は288円で、実施公表当日の7月22日終値が464円なのでディスカウント率は37.9%。これまでの実施例の中では4番目の低さだ。

アンジェス社は2002年9月の上場以来、一度も営業損益ベースで黒字化したことがない(下の業績推移参照)。というのも、研究開発費を費用計上しており、毎期売り上げを大きく上回る研究開発費用を使っているからだ。

だが、上場以来一環して無借金。上場後3回、エクイティを実施しており、直近の2014年12月期第1四半期末時点の純資産は31億円。総資産の約55%が現預金と、財務体質はかなり良好だ。

ずっと赤字でPERは計算しても意味がないので、PBR(株価純資産倍率)で計算してみても、ピークで11倍超。13年12月末時点でも5.72倍とその水準は高く、いつ黒字化するのか分からないにもかかわらず、市場の評価は非常に高い。

ライツオファリング実施を公表すると、権利行使価格に向かって株価は真っ逆さまというのが一般的だが、今回のアンジェス社の場合、7月29日前場終了時点の株価は372円。7月22日終値比で2割程度の下落にとどまっている。

報告書には2期連続経常赤字または債務超過を足切り基準とする案が出ているが、アンジェス社のような、赤字続きなのに財務は良好でしかも市場の評価は高いという会社をどう扱うのか。

今回の報告書は典型的な崖っぷち企業を想定している印象があるが、アンジェス社も含めた26例のうち、発行公表時点で債務超過だったケースは実は4例しかない。

自主的に株主総会決議を発行要件にした石山Gateway Holdings(7708・JQ)とアンジェス社の例は、それまでの24例とはだいぶ趣が異なる。最終的に東証がどういう判断を下すのか注目される。

アンジェスMGの業績推移
売上高 営業利益 経常利益 当期純利益 総資産 純資産 自己資本比率 期末株価 PBR BPS
02/12 1,794 -513 -555 -560 5,633 4,477 79.5% 455,000 8.54 53,273.51
03/12 2,453 -948 -953 -978 10,974 9,454 86.2% 818,000 8.13 100,670.01
04/12 2,696 -1,561 -1,558 -1,541 10,009 8,656 86.5% 529,000 5.98 88,530.64
05/12 2,430 -1,970 -1,870 -1,905 9,014 7,456 82.7% 834,000 11.35 73,465.57
06/12 2,912 -1,523 -1,137 -1,114 8,063 6,758 83.8% 609,000 9.34 65,190.13
07/12 1,720 -2,039 -1,730 -1,728 13,182 12,305 93.0% 620,000 5.93 104,571.65
08/12 951 -2,684 -2,541 -3,534 9,678 8,963 92.0% 133,400 1.76 75,611.82
09/12 585 -2,610 -2,783 -2,921 7,162 6,512 89.5% 141,000 2.59 54,345.29
10/12 286 -2,010 -1,911 -1,967 5,004 4,287 82.7% 114,900 3.28 35,019.99
11/12 243 -2,018 -1,708 -1,807 3,889 3,278 79.4% 44,300 1.76 25,228.92
12/12 444 -1,785 -1,716 -1,708 2,260 1,738 70.0% 53,500 4.43 12,064.03
13/12 491 -1,363 -1,383 -1,409 3,904 3,543 86.4% 617 5.72 107.86
14/12予 750
~850
-2,600
~-2,400
-2,600
~-2,400
-2,600
~-2,400
著者紹介 伊藤 歩(いとう あゆみ)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)
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