特報 ローランドTOB成立 株主は経済合理性で判断

特報 連載


臨時株主総会基準日は7月30日

7月15日、注目のローランド(7944)のMBO(経営陣による買収)の結果が公表された。結果は82.92%の応募でTOB(株式公開買い付け)は成立。実質的な買収者であるTAIYOファンドが、ローランドの買収に成功した形だ。

ローランド(7944) 日足

ローランド(7944) 日足

買収者が少数株主を、その意志とは無関係に強制的に追い出すスクイーズアウトの場合、一般株主の意思決定に大きく影響を与えるのが、会社側の賛同の有無と、影響力の大きい大株主の意思。本件では会社側は賛同していたが、ローランドの創業者である梯郁太郎氏が猛反対していた。梯氏は、現経営陣に絶望し、昨年12月に保有株をすべて会社に売却しているが、かつて梯氏保有の株式を出資して設立されたローランド芸術文化振興財団は今も筆頭株主。梯氏は同財団の理事長として猛反対し、財団としてTOBには応募しないということになった。このため、一般株主の行動にどの程度影響を与えるのか、大いに注目を集めていた。

当初予定ではTOBへの応募期間は6月25日までだったが、前日の6月24日になって突然、期間延長を公表。理由は、昨年に梯氏が保有株を会社に売却した際のささいな計算ミスである。

議決権総数は梯氏から取得した自己株を差し引いた残りということになり、ここで計算ミスをすると、各株主たちの議決権割合が微妙に変わってくる。

買収者である常若コーポレーションが出した公開買付届出書や、会社側が出した意見表明報告書に記載されている財団の保有割合は9.82%だが、正しくは10.53%でした、というわけだ。

金融商品取引法では、投資家の判断に影響を与える重要事項が判明した場合は、公開買い付け期間を最大10日延長せよと言っている。

買収者、会社側双方の説明によれば、この変更があったからもっぱらテクニカルな理由で期間延長を行った、というものだったが、市場が額面通り受け止めたかどうかは疑問だ。10日の延長でいいのにそれを上回る13日の延長だったし、変更内容は普通の感覚ならささいだ。それも昨年12月時点のミスを引き合いに出してのいまさらながらの変更である。このため、市場関係者からは「思うように応募が集まらないからでは」といった声も出ていたのだ。

だが、フタを開けてみれば応募は82.92%。TOB成立の下限66.66%を大きく上回った。過去のMBOは大半が9割超の応募を獲得しているので、過去の事例に照らせば記録的な低さではあるが、82.92%もの応募があったということは、梯氏の影響力はTOBを不成立に導くまでのものではなかったということになる。

もっとも、ローランドの株主には、情緒的判断ではなく経済合理性で判断する金融機関や外資系のカストディなどが名を連ねており、しかも今回のMBOは、虎の子の子会社・ローランドDG(6789)の株式売却もセットになっており、経済合理性で判断するならMBOの成立を願わざるを得なかったという事情がある(関連記事、5月27日付1面および6月4日付最終面)。

さて、それでは今後はどうなるのか。会社側からは9月下旬ごろに臨時株主総会を開催する、そのための基準日を7月30日に設定する、というリリースが出ている。

9月下旬開催の臨時総会は、すなわち少数株主を追い出すための追い出し3点セットの決議をとるために開催される。通常はTOB終了から3カ月程度、間が空くのだが、TOB期間延長の影響なのかもしれない。9月末総会だと、総会決議時点でローランド株は整理ポストに移され、10月下旬に上場廃止になる。ちなみにこの時期に上場を廃止できれば、ローランドは第2四半期の業績開示をしなくてすむ。

本件はもともと、虎の子のDG株の売却益を実質買収者であるTAIYOが一人占めするスキームだ。従って、DG株の資産性を考えるとTOB価格は著しく安い。そこで、当然少数株主にとって唯一実行可能な抵抗手段の行使、つまり強制買い取り価格引き上げを目指す、買い取り価格決定の申立狙いの株主が、TOB成立を見極めて活動を始めるはずだ。

せっかく買い取り価格決定狙いでTOB期間中に株を仕込んでも、万が一TOBが成立しなかったら買い取り価格決定の申立自体ができなくなり、目も当てられない状況になりかねなかったからだ。

その微妙な心理が交錯し、ローランドの株価はTOB価格にほとんどヒットすることなくTOB価格を大きく下回り続けた。身内だけでTOBの成立が確実だった東宝不動産の場合は、買い取り価格決定申立狙いの投資家の買いで、TOB期間中の株価は常にTOB価格を大きく上回っていた。

実際、TOB成立翌日から株価は上昇。TOB期間中には一度も上回ることがなかったTOB価格を早くも上回っている。しかも16日からの3営業日の売買高は累計で16万1,400株。議決権個数で言うと1,614個。この個数は侮れない。

というのも、TAIYOが獲得した分を差し引くと、残りは3万7,388個。このうち財団が2万3,350個を押さえており、残りは1万4,038個しかない。1,614個といえばその11%に当たり、それがわずか3日間での売買高ということになるからだ。

買い取り価格決定の申立は、臨時総会開催前日までに株を取得していれば可能なので、まずは基準日の7月30日が第一のターニングポイント、そして第二のターニングポイントは9月下旬。上場廃止後は買い取り価格決定の申立を行った顔触れに関心が移る。

一般に裁判所は買い取り価格の決定に当たり、DCFを採用する傾向にある。追い出される株主にとっては、事実上会社が解散してしまうのと同じことを意味するので、将来の収益予想ベースではなく、純資産価値での強制買い取りを求める。だが、少数株主には解散・精算によって資産の分配に与れるだけの腕力がない、だからDCFなのだ、というのが裁判所の基本的な考え方らしい。

ただ、本件はかの闇株新聞氏が「現金を付けてファンドに引き取ってもらったようなもの」とまで言っている。裁判所の従来判断を変える可能性もゼロとは言えないだけに、今後も注目すべき事案だろう。

著者紹介 伊藤 歩(いとう あゆみ)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)
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