深堀健二の兜町法律放談 住友電工カルテル株主代表訴訟事件【後編】

兜町法律放談 連載


前回、住友電工がカルテルに基づく課徴金納付命令を受けたことから株主代表訴訟を提起され、元役員らが5億円を超える解決金を支払う和解が成立した件について検討しましたが、今回は、「課徴金減免制度」を概観するとともに、役員のコンプライアンス体制構築義務について考えてみたいと思います。

1 課徴金減免制度について

独占禁止法は、カルテルや談合などの不当な取引制限行為を抑止するために、違反行為者に対して行政上の金銭的不利益を課す制度です。違反行為者は、違反行為に係る売上高(談合等によって獲得した売上高)に対して、製造業10%、小売業3%、卸売業2%といった形で金銭的なペナルティーを課されることになります。

しかし、カルテルや談合は、密室で行われる行為であるため、事案の発見・解明は極めて困難です。

そこで、違反事実を自ら報告してきた事業者に対する措置を免除または減免することにより、摘発、事案の真相解明、違反状態の解消を図ることを目的として平成17年、課徴金減免制度(リニエンシー制度)が導入されました。

課徴金減免制度では、調査開始日前の申請者及び調査開始日後の申請者の最大5社までが、課徴金を30%ないし100%減免されることになっています。

また、課徴金納付命令に加え、独占禁止法上の刑事罰についても、調査開始日前に単独で最初に課徴金の全額免除に係る報告および資料の提出を行った事業者に対しては、公取委が刑事告発せず、後順位の申請者も調査への貢献に応じて対応が決定されることになっています。

もともとわが国の社会には、談合やカルテルといった行為が、業界の秩序維持や品質維持といった「公益的発想」に支えられ「必要悪」として受容されてきた背景がありましたので、この課徴金減免制度に対して、「密告制度」「業界秩序が乱れる」といった批判があったのは記憶に新しいところです。

2 コンプライアンス体制構築義務

課徴金減免制度の導入により、取締役の義務の範囲はどのように変わったでしょうか。

従来であれば、「違法行為をしない」すなわち違法行為の「未然防止」に主眼が置かれており、それに尽きていたともいえます。

しかし、課徴金減免制度の導入によって、取締役には、(1)予防義務に加え、(2)違法行為の早期発見を可能とする体制の構築義務および、(3)違法行為が発覚した場合に課徴金減免制度を速やかに申請し得る体制の構築義務が、課されることになったといえます。

具体的には、(2)として、(ア)営業部門等の部署に対する内部監査の実施、(イ)内部通報制度の整備、(ウ)社員の自己申告制度の導入などが考えられます。

さらに(3)として、ア社内調査体制をあらかじめ整備し違反事実が発覚したり公取委の立入検査が行われた場合に迅速に事実関係を把握できる体制を整備する義務、イ調査の結果違反事実を把握した場合に課徴金減免申請を速やかに決定するための手続・決裁規程の整備などが考えられます。

3 公取委に対する供述調書

従来、カルテル・談合などが発覚した場合には、公取委が関与企業の従業員に幅広く事情を聴取し、事件の全容を解明してきました。

減免制度を利用しなかった関与企業は課徴金を課されますが、一応、社内研修等を徹底していれば「未然防止義務」は履行されていたとされ、他の証拠も乏しかったことから、役員が代表訴訟で責任を問われることはありませんでした。

しかしながら、今回の住友電工事件によって、公取委に対する従業員の供述調書が否応なく証拠として代表訴訟に顕出される扱いが定着するとなると、会社が違法行為を把握した時期が具体的に認定される可能性が高くなりますので、「速やかに課徴金減免申請しなかった」ことにより課徴金を課されたと評価され、役員が賠償責任を負う事例が増え、代表訴訟も増加するのは間違いありません。

そうなると、課徴金減免制度を利用できなかった場合に、役員が従業員に対して箝口令を引き、公取委の事情聴取に協力しなくなるケースも増えるのではないかと危惧(きぐ)する次第です。

深堀健二氏プロフィール
八重洲総合法律事務所弁護士(証券アナリスト資格保有)。平成5年慶應義塾大学法学部法律学科卒、都市銀行入行、証券会社勤務を経て平成22年12月弁護士登録。
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