深堀健二の兜町法律放談 住友電工カルテル株主代表訴訟事件【前編】

兜町法律放談 連載


各紙報道によれば、さる5月、株主代表訴訟を提起されていた住友電工(5802)の元役員らが、株主に対して約5億2,000万円の解決金を支払う和解が成立しました。

この事件は、同社がNTT東日本等の発注する光ファイバーケーブル製品等の販売に関して、公取委から同業者間でのカルテルを認定され、約67億円の課徴金納付命令を受けたことから、株主が、事件当時の取締役に対して損害賠償の支払を求めた事案です。

1 立証責任と経営判断原則

株主代表訴訟は、取締役に対して、注意義務違反により会社に発生した損害の賠償を請求する訴訟ですから、請求が認められるためには、株主が、当該取締役の注意義務違反行為の存在及び同行為に起因し会社に発生した損害の額を証明する必要があります。

株主代表訴訟ではほとんどの証拠が「会社」にありますので、株主が取締役の注意義務違反行為を立証することは極めて困難です。

また、取締役の注意義務違反には「経営判断の原則」が適用され、多くの場合、取締役は保護されます。

すなわち、取締役は過失により会社に損害を与えた場合には損害を賠償する責任を負いますが、あまりに厳格に責任を負わせると、取締役の人材枯渇や、判断の萎縮を招くことから、裁判所では、

(1)利害関係のない取締役による
(2)善意の経営判断に基づいた
(3)法令違反のない業務執行については、軽過失があった場合も免責される

と判断されるのが一般的なのです。

このように株主に立証責任があること及び経営判断の原則が適用されることから、株主が代表訴訟で勝訴することは、相当ハードルの高いことなのです。

2 供述録取書の開示・経営判断適用なし

ところが、本件では(1)公取委に対して供述調書等の開示命令がなされたこと及び、(2)経営判断の適用がないことから、役員にとって厳しい訴訟展開になった結果、5億円もの賠償責任を認める和解となったようです。

まず、裁判所は、株主の申立てた文書提出命令の申立てを認容しました。株主は、取締役がカルテルに関与し又は知り得た事実、カルテルを未然に防止するコンプライアンスシステムを構築しなかった事実、課徴金減免制度に関するコンプライアンスシステムを構築しなかった事実等を立証しようとしました。

そして、これら事実を立証する証拠として、裁判所は、同社部長級従業員2名の公取委職員に対する供述調書等の提出を命じました。

間違いなく、役員の責任を肯定する方向の事実を従業員が供述していたのでしょう。

また、課徴金納付命令を受けた事案においては、「経営判断の原則」が適用されません。

なぜなら、経営判断の原則は法令違反の場合には適用がなく、課徴金が課された場合は「法令違反があった」のが通常だからです。

以上のように、供述調書の開示により注意義務違反行為が立証され、経営判断の原則による保護もなかったため、裁判所としては株主の請求を一定程度認めざるを得ず、5億円を超える金額での和解となったと思われます。

3 企業に必要な対応

本件で明確になったのは、独禁法違反行為により課徴金納付命令を受けた場合には、公取委に提出した供述調書は代表訴訟で証拠として表に出てしまうことを前提にコンプライアンス体制を構築しなければならないということです。

また、万一自社従業員が独禁法違反行為をしており、同業他社の課徴金減免制度利用の兆候を認識した場合には、後順位でも構わないので全力で課徴金減免制度を利用しなければなりません。

ただこれが行き過ぎると、課徴金減免制度を利用できなかった企業の従業員が、公取委に対して何も話をしなくなる傾向が強まり、公取委による事件の全貌解明に支障をきたすような気がしてなりません。

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