特報 チャイナボーチー上場廃止の後日談 法廷闘争に横たわるケイマン籍のハードル

特報 連載


昨年11月12日、MBO(経営陣による買収)で上場廃止になったFACTA銘柄のチャイナボーチー。例によってキャッシュアウトを使った少数株主の追い出しだったわけだが、追い出された少数株主4名(うち法人1)による法廷闘争が1月半ばから始まっている。

通常、キャッシュアウトは追い出し決議に必要な議決権を確保するため、まずはTOB(株式公開買い付け)を実施する。ここで3分の2以上の議決権を確保した上で臨時株主総会で追い出しを決議するのだが、チャイナボーチーの場合はTOBを実施せずいきなり臨時株主総会を開いた。

買収者はCBESホールディングス。チャイナボーチー経営陣の会社である。臨時総会の議題はCBESによるチャイナボーチーの吸収合併であり、チャイナボーチーの株主に渡すものがCBESの株ではなく金銭というスキームだ。臨時総会では88.4%の賛成票を獲得している。

通常、キャッシュアウトは全部取得条項付き種類株の発行というややこしい手続きを使うのだが、それは少数株主から強制的に買い上げる株の対価として、ストレートに金銭を支払ってしまうと、税務上適格合併の扱いにならず、買収される会社が課税されるリスクがあるから。

チャイナボーチーはケイマンの会社であり、日本の税法が適用されないので、ストレートに少数株主に金銭を渡す形がとられている。もっともこの辺りのことは、手続きがシンプルでわかりやすいとはいえ、追い出される株主にとってはどっちにしろ、金銭が支払われるのでどうでもいいといえばどうでもいい。

だが、始まったばかりの法廷闘争では、ケイマン法人であるが故の少数株主にとっての不利益が顕在化しているのである。

まず、通常なら臨時総会で追い出しが決議されたら、追い出し単価に不満な株主は裁判所に買い取り価格決定の申し立てをする。この手続きは裁判所に価格を決めて下さいとお願いする手続きで、いわゆる〝訴訟〟ではない〝非訟〟事件。法廷は非公開だし、理屈の上では申し立てた側の少数株主に価格についての立証責任はない。実際には会社側はTOB価格の正当性を主張するので、それを崩す反論はしなければ、なかなか成果は得られないのだが、とにかく理屈の上での立証責任はない。

ところが、チャイナボーチーは買収者であるCBESと既に合併しているので法廷闘争の相手方はCBESになるのだが、このCBESもケイマン籍。ケイマン法における少数株主の救済手続きとして、チャイナボーチーが臨時株主総会の招集通知に記載した手続きは、チャイナボーチーと株主の間で株式譲渡契約をあらかじめ総会前日までに締結して、後からその対価を訴訟で争う、というもの。つまり訴訟である。少数株主は「1株当たり××円が正当な対価だと思うので、総額○○万円の株式売買代金を支払え」という訴訟を起こさなければならない。当然立証責任は原告である少数株主が負う。

さらに、訴訟を起こすには、訴える相手方の商業登記簿謄本を添付しなければならないのだが、ケイマン籍の会社の商業登記簿の取得の方法を知っている人はごく一部の人に限られる。実際筆者も知らなかった。この分野に詳しい同業のジャーナリストに聞いたら「ネットで取れて決済はクレジットカード」だと教えてくれたが、今回訴訟を起こしている原告のうちの一人は、「招集通知に会社側のリーガルアドバイザーとして載っていた法律事務所にどうやったら取れるのか聞いたが、電話口に出てきた弁護士には分からないと言われた。東京地裁の事務官に聞いても分からず、担当裁判官が決まったらその裁判官にどうするのか判断してもらうことになった」という。ちなみに、分からないと答えたこの事務所は、国内4大事務所の1つである。

結局裁判官が被告のCBES側に出させるという判断をして事なきを得たが、謄本が取れないから門前払いという可能性もあったのだ。

理屈の上で考え得るリスクはまだある。外国会社との訴訟では、訴訟自体に勝てても、万が一相手が払わなかった場合、強制執行をかける手段がない。

株式投資経験がない個人を株式投資に勧誘する際、倒産リスクは教えてもキャッシュアウトリスクはまず教えない。ましてそれが外国会社となったらなおさらだ。

唯一の明るい材料は、6000円という合併対価の計算根拠が分かる評価書を、CBES側が何の抵抗もせずに出してきたことだろう。通常、キャッシュアウトを実施した会社は、追い出し単価の算出根拠を明示した評価書の開示を徹底的に拒む。提出の有無をめぐる攻防がなくあっさり提出に応じたことは、過去の事例に照らせば奇跡に近い。

今回訴訟を起こしている4名はいずれも弁護士を付けていない。一般に裁判官は出来の悪い弁護士には容赦がないが、本人訴訟で戦う素人には丁寧な対応をしてくれる裁判官が一定割合存在する。この分野は経験が命なので、この分野の経験がない弁護士を付けるくらいなら本人訴訟の方がマシ。本人訴訟であることがハンディになるとは限らない。

〝奇跡〟がどの程度の効果をもたらすのかも含め、裁判の進捗(しんちょく)は注目に値するだろう。

著者紹介 伊藤 歩(いとう あゆみ)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)
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