特報 光通信の京王ズTOB 買付単価555円は高水準

特報 連載


応募か成長期待か、株主は思案どころ

4月7日、光通信(9435)京王ズ(3731・東マ)を子会社化すべく、同社株のTOB(株式公開買い付け)実施を正式に発表した。

京王ズは、主力事業が携帯電話のショップ経営。キャリアと直取引ができる一次代理店ではなく、一次代理店から製品を仕入れてエンドユーザーに販売する、いわゆる二次代理店である。東北6件に51カ所のショップを展開しており、このうち35店舗がソフトバンクのショップで、その上位代理店が光通信。

そもそもの発端は2月28日に京王ズが、ノジマ引き受けの第三者割当増資実施を発表したことにある。京王ズは、光通信から求められていた販売手数料率の引き下げを拒絶。関係が悪化していたので、ノジマに一次代理店を乗り換える目的でこの第三者割当増資を決めた。調達額は21億円で、希薄化率はなんと111%。実施後はノジマの保有割合がいきなり過半数になり、実質28.13%を保有する創業者の佐々木英輔氏も、22.96%を保有する光通信も一気に抜き去るという内容だった。

京王ズは、2011年に創業者の佐々木氏による会社資産の私的流用が発覚。佐々木氏は経営を退き、代わって社長に就任したのが現社長の横江実氏。光通信からの手数料引き下げ要請局面では、佐々木氏と横江氏は一体だったのに、ノジマへの第三者割当増資の件は佐々木氏に仁義を通していなかったらしい。

有力二次代理店を失いかねない光通信が増資差し止めを求め、仮処分を打ったのは当然として、佐々木氏にまで仮処分を打たれてしまった。もっとも、高い希薄化を伴う増資であっても、調達する資金の使途に妥当性さえあれば仮処分決定が下りることはまずなく、本件でも光通信は仮処分ではあっさり負けている。佐々木氏に関しては個別株主通知という手続きを踏んでいなかったため、形式要件で棄却されるというお粗末さだった。この点は佐々木氏の弁護士の責任だろう。

いずれにしても、これほどの希薄化を伴う増資が、取締役会決議だけでできてしまい、裁判所もほぼ相手にしてくれないという現実については、ネットの「闇株新聞」氏が強く批判しているところでもある。それでも京王ズが光通信の軍門に下ることになったのは、仮処分に驚いたノジマに逃げられたからだ。

今回の条件を検証してみると、買付単価は555円、買付株数に上限は設けないが、上場は維持する予定なので、上場廃止基準に抵触するくらいの応募があったら、全部を買い付けはするが、立会外分売りや売り出しなどの方法で上場廃止を回避するという。

プレミアムはというと、4月7日終値ベースでは0.9%だが、既に3月26日の時点でこの値段でTOBを実施する意向であることを公表しているので、3月25日終値比で計算すると、66.17%という高水準のプレミアムになる。

佐々木氏とは既に応募契約が結ばれているそうなので、光通信自身の保有分22.96%と合わせるとそれだけで51.09%になる。

さらに、555円という買付単価はこの会社のここ数年の株価からするとかなりの高水準だ。別表は04年1月に上場した京王ズの上場来の業績を集計したものだ。12年10月末時点までと、13年10末時点とでは株価が全く異なるのは13年1月に100分割を実施したため。従って、04年10月期から12年10月期までの株価は100で割って見ていただきたい。

以下、株価については全て分割調整後であることをお断りしておきたい。11年3月に一時的に700円台を付けたことがあるとは言うものの、ここ数年は良くても400円台。08年11月から09年5月ごろまでは株価2ケタに落ちたこともある。500円以上の水準だったのは07年10月が最後だ。直近本決算の13年10月末時点の1株純資産が450円03銭と比較しても1.23倍だ。

過去の株価からすると、応募株全株を買い付けてくれる今回のTOBは千載一遇のチャンスと言っていい。応募が殺到する可能性がある一方で、利潤追求に厳しい光通信の子会社になることで、大きく成長を遂げる可能性も出てきた。

子会社化したらすぐに臨時株主総会を開催、現在5名いる取締役のうち3名を退任させ、代わりに光通信から3名を送り込むという。5名のうち2人は社外取締役なので、横江社長以下、常勤取締役3名がクビになるということなのだろう。

自身が上位代理店であるソフトバンクショップについては、ノジマを頼った21億円の資金を自ら融資すると言うから、買収早々テコ入れされることは間違いない。また、京王ズはソフトバンクショップ以外にauのショップも13店舗経営しており、光通信は当面この13店舗については京王ズの自主性に任せると言っているが、ここもいずれはテコ入れの対象になるだろう。

従業員にとっては大変だろうが、会社としては劇的に収益力が改善する可能性もある。

ただ、子会社化してしばらく経過するとスクイーズアウトで完全子会社化するというパターンは数多い。その場合、子会社化するときのTOB単価は株主にとって極めて好条件だが、スクイーズアウトのTOBでは破格の安値になるのがこれまでのパターンだ。

ここで応募してしまうか、今後の成長にかけるか、株主としては思案のしどころだろう。

京王ズの業績推移

京王ズの業績推移(クリックで拡大)

著者紹介 伊藤 歩(いとう あゆみ)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)
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