深堀健二の兜町法律放談 野村證券デリバティブ説明義務違反事件(2)

兜町法律放談 連載


「説明義務」「適合性原則」と顧客属性

前回、学校法人が証券会社からのセールスを受けて、外国為替を組み込んだ「仕組債」で財産を運用中、文科省の指導を受け解約したところ、解約料として11億円以上を請求されたことから、学校法人が証券会社の適合性原則違反ないし説明義務違反に基づく損害賠償請求訴訟を提起した事件について検討しました。

今回は、前回紹介した事件においても判断の決め手となった「顧客属性」に注意いただきたいとの話をしたいと思います。

1 裁判になった場合の原告の主張

私はもともと銀行で10年働いた後、弁護士になったのですが、司法修習期間中、最初に驚いたのが、顧客が金融取引に関して金融機関を訴えた事件での原告の主張でした。

現場の感覚では、「投資商品は元本毀損(きそん)リスクがある」「投資は自己責任、分からなければ買わない」ことが当たり前でしたので、裁判での顧客の主張は、そんな現場感覚からは想像もつかないものでした。「ノックインと元本損失発生の条件および額の関係について説明を受けていない」「購入した商品にどの程度の損害が発生するかという『損害の程度』の説明を受けていない」「解約時に想定される最大の解約清算金の説明を受けていない」等々、まさかそのような説明を受けていないことを根拠に、「説明義務違反」により投資損失の全額の賠償を銀行に請求する顧客がいるなんて、夢にも思っていませんでした。

これらの事項に関する説明義務の存否については裁判例が蓄積され、基本的には金融機関には説明義務は無いと判断されるようになってきています。

ところが、さらに無体な主張をする顧客もいるのです。リスクの説明を受け、契約書類中にある「意思確認欄」に署名押印したことは認めながら、「リスクの説明は受けていない」と主張する顧客です。

すなわち、(2)自分は投資信託のことはよく分からないが、担当者から勧められたので良いと思った、(2)銀行の商品に元本割れする商品があるとは夢にも思わなかった、(2)元本割れするリスクを知っていたら買わなかった、④「意思確認欄」に署名押印したのは事実だが、契約時には大量の書類に次から次へと署名押印を求められたので、それぞれの書類の持つ意味など理解していなかったと、要するに「私は何も理解できていなかったが、勧められるまま買った」との主張です。

2 顧客属性による裁判所のバイアス

このような「無体な」主張を裁判所が認めるか否かについて、顧客の属性は大きな影響を与えます。

私もそうでしたが、裁判官というと、一般人からすると、形式的に法律を適用する機械のような人物を想像してしまいがちです。しかし、多くの裁判官は、法律を形式的に解釈するのではなく、弱者を救済しなければならない、「可哀相な人を救わなければならない」という意識を強く持っているため、事件の「情緒的側面」を大事にするのです。

そのため、主張が多少無体であっても、「全体として見れば原告が可哀相なのは間違いない」と裁判官に思わせることは、弁護士の重要な訴訟活動ですし、そういった「可哀想な被害者」だからこそ、弁護士に勝訴の可能性を感じさせるのです。

そのせいかどうか分かりませんが、投資商品に関する適合性原則違反や説明義務違反が問題になる裁判例のほとんどが、高齢者や精神疾患を有する方が原告になっています。

3 金融機関職員・投資家の心得

ですから、もし、私が現役の銀行員に戻ったら、次の3つを励行すると思います。(2)高齢者には複雑な商品、リスクの高い商品、知名度の低い商品は販売しない、(2)高齢者にリスク商品を販売するときは資産全体の3割以内にする、(2)高齢者から受ける投資経験、財産状況、投資目的の説明や、こちらからのリスクの説明、そして意思確認の様子を録音しておく。

他方で、投資家の皆様におかれましては、(2)分からないことは、分かったフリをしないで、何でもしつこく尋ねる、(2)営業マンのことを信用し過ぎない、(2)分からない商品や聞いたこともない商品は買わない、ということに気をつければ、万一値下がり損が出ても、納得できるのだと思います。

深堀健二氏プロフィール
八重洲総合法律事務所弁護士(証券アナリスト資格保有)。平成5年慶應義塾大学法学部法律学科卒、都市銀行入行、証券会社勤務を経て平成22年12月弁護士登録。
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