深堀健二の兜町法律放談 野村證券デリバティブ説明義務違反事件

兜町法律放談 連載


今月は、ビジネスマンなら聞いたことのある「説明義務違反」について検討します。

1 事件の概要

学校法人Xは、Y証券と資産運用に関する取引を開始したところ、平成13年以降は大半を米ドルや豪ドルと連動する仕組債と呼ばれる社債で運用していた。

平成19年秋頃からXの理事はYの営業マンから日本円と豪ドルを10年間にわたり毎月交換し差額を決済するフラット為替取引の勧誘を受け、平成20年1月、XとYは、毎月YがXに対して金額A(20万豪ドルを合意した参照為替レートで換算した円貨)を、XがYに対して金額B(20万豪ドルを1ドル=74円で換算した円貨)を支払うという契約を締結し、さらに合意した参照為替レートが一定価格より円高になった場合には支払額が3倍となるなどの条件も付した。

平成21年1月、文部科学省は学校法人のリスク商品による資産運用に警告を発し、Xに対して資産運用を変更するよう促した。

平成21年3月、Xは本件取引を解約し、解約料として11億6,270万円を支払った。

そこでXはYの従業員による本件取引の勧誘が適合性原則違反または説明義務違反であるとして損害賠償を請求した。

2 裁判所の判断

裁判所は、Yの説明義務違反を認め、損害についてYの(解約料+取引損失額)賠償責任を認めました。

その根拠として、(1)Y従業員自身、解約料の具体的な算出方法は分からず「大きな損失」といっても10億円なのか1,000万円なのかすら理解していなかったことに照らすと、解約料について詳しく説明したとはいえず、解約料の発生を考慮した上で本件取引を行うかどうかを決定する判断材料を与えたとはいえない、(2)Xは学校法人であるから、中途解約する場合の解約料が10億円を上回ることがあり得る旨説明を受けていれば本件取引自体を行っていなかったと認められる、の2点を指摘しました。

また、裁判所は「原告が本件取引によって生じる損失に耐えられない状態であったとは認められない」として適合性原則違反を認めませんでした。

3 適合性原則と説明義務違反

平成17年に最高裁は、顧客の意向と実情に反して、明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するといった適合性原則違反が不法行為となりうる、その判断においては、当該取引の一般的抽象的リスクのみならず、当該取引の基礎商品は何か、上場商品とされているかなどの商品特性との相関関係において、顧客の投資経験、証券取引の知識、投資意向、財産状態等の諸要素を総合的に考慮する必要があるとしています。

この最高裁判例を踏まえ、適合性の原則は二段階で理解されています。すなわち、①一定の取引は、顧客の属性に照らして(いくら説明を尽くしても)勧誘・販売を行ってはならない、②勧誘・販売を行って良いとされる場合に当該顧客の属性に照らして当該顧客に理解されるために必要な方法および程度による説明をしなければならない。

これに対して、説明義務は、自己責任原則成立の前提として、金融商品・取引について業者と投資者との間に存在する構造的な情報格差を是正する趣旨から観念されるものであって、説明義務の内容は、金融商品・取引に関する投資者の情報判断に必要と考えられる重要情報を説明しなければならないと理解されています。

適合性原則と説明義務の関係は学術的にはいろいろと議論されていますが、いざ裁判となった場合には、適合性原則違反も説明義務違反も両方当然主張しますので、正確に峻別(しゅんべつ)する必要はないと思います。

本件では、「顧客の属性」こそが、判決の結論を左右した事実だと考えていますので、次回、その点についてご説明したいと思います。

深堀健二氏プロフィール
八重洲総合法律事務所弁護士(証券アナリスト資格保有)。平成5年慶應義塾大学法学部法律学科卒、都市銀行入行、証券会社勤務を経て平成22年12月弁護士登録。
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