深堀健二の兜町法律放談 日立造船株式譲渡事件<後編>

兜町法律放談 連載


デッドロック回避策について

前回、日立造船が出資した子会社であるNBLが、旧経営陣・少数株主の意に反して重要技術を移転させる会社分割(新設)を行った上、設立した会社の株式100%を日立造船に売却したところ、NBLの旧経営陣が、日立造船から派遣された役員を背任で告発したり、損害賠償請求している事案を検討しました。

この事件で日立造船は、資金援助のため行使すればNBLの発行済株式の過半数に至る新株予約権の発行を受けたところ、発行から1年後に新株予約権を行使して支配株主となり、直ちに旧経営陣を一掃、さらにほかの株主からも株式譲渡を受け66.68%を所有し、会社分割および株式譲渡を着々と実行しました。

私は、この日立造船の対応を「デッドロック回避策を着実に実行しただけ」だと申し上げましたところ、今回は「デッドロック」について検討したいと思います。

1 デッドロックとは

一般に、デッドロックとは、合弁当事者間の意見の対立により、合弁会社がその意思決定を行うことができなくなる状態を指します。例えば、合弁当事者の持株比率が50:50の場合で、合弁当事者が派遣する取締役の人数も同数の場合には、合弁当事者間の意見が対立すると、株主総会でも取締役会でも、多数決では何も決めることができなくなってしまいます。

そこで、一般的にはこのようなデッドロック状態に陥らないよう、「デッドロック回避策」「デッドロック解決策」が用意されることになります。

2 デッドロック回避策

デッドロックが生じると合弁会社の事業運営に著しい支障を来たします。そこで、未然防止のために(1)取締役の数を奇数にしておく方法や、(2)取締役会の議長に決定権を付与する方法などが考えられます。

しかし、持株比率が50:50の場合、一方の株主側が1名でも多くの取締役を出すことが前提となる「取締役の数を奇数」にしたり、どちらかが推薦した議長に決定権を委ねたりすることは、通常考えられません。

したがって、この(1)(2)の回避策は持株比率に差がある場合のみ妥当すると考えられ、結局のところ、デッドロックを回避するためには持株比率に差をつけること、すなわち「1株でも多く株を持つこと」が必要なのです。

3 日立造船の「過半数」へのこだわり

前回も述べた通り、私は日立造船が最初から会社を乗っ取ったり重要技術を移転させようと企図していたのではないと思っていますが、結果的にはデッドロック回避のため「1株でも多く株を持つ」ことにこだわって交渉し、最終的には主導権を握ることに成功しています。

ポイントは日立造船がNBLに対して資金援助した際に「行使すれば過半数に至る新株予約権の発行を受けた」ことです。

おそらく日立造船は、交渉の最初から「株の過半数を握る」ことにこだわっていたのでしょう。資金支援スキームも、日立側の提案は「第三者割当増資」だったかもしれません。しかし、いきなり株の過半数を握られるなど、旧経営陣が承服するとは到底考えられません。そこで、折衷案として合意されたのが「過半数に至る新株予約権」だったと思われます。

日立側と旧経営陣の間には、口頭で「信頼関係が重要」「現時点では予約権を行使することは想定していない」といったやりとりがあったと容易に推測できます。

しかし、日立造船はNBLに株主として関与し始めた結果、「投資回収のためには早急に主導権を握ることが必要」と判断したのでしょう。極めて迅速に

(1)新株予約権行使、支配権(過半数)獲得
(2)株主総会で旧経営陣を解任
(3)66.8%まで増やし会社分割、株式譲渡

と、なりふり構わず重要技術の確保に走りました。

今回の日立造船が採用した「過半数に至る新株予約権の発行」という方法は、予約権が行使されない可能性もある点で、マイルドな方法ですから、デッドロック回避策として導入しやすい方法だと思います。

ただ、繰り返しになりますが、出資を受ける側の経営者にとっては、経営権を奪われかねない事態を招きますので、十分に注意し、「3分の2超を確保」することを基本にしていただきたいと思います。

深堀健二氏プロフィール
八重洲総合法律事務所弁護士(証券アナリスト資格保有)。平成5年慶應義塾大学法学部法律学科卒、都市銀行入行、証券会社勤務を経て平成22年12月弁護士登録。
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