深堀健二の兜町法律放談 日立造船株式譲渡事件<前編>

兜町法律放談 連載


今回は、正月早々から報道されている、日立造船の子会社の行った株式譲渡が、特別背任に該当するとして刑事告訴されるとともに、同子会社の旧役員から損害賠償請求訴訟を提起された事件について検討したいと思います。

1 事案の概要

週刊東洋経済ほか、報道されている事実関係はおおむね以下の通りです。

NBL社は、原油採掘向けのFRP製高圧油井管の製造技術を有するベンチャー企業。

2008年9月には米国ファンドから3,200万ドルの出資話が決まったがリーマン・ショックにより頓挫。代表者の古巣である日立造船に支援を求め、融資と合わせ、09年3月に1年後を期限とする新株予約権(日立造船の保有割合が過半数)を発行することに。

10年3月日立造船は新株予約権を行使し支配株主となる。同年5月にはプロパー役員を全員解任、11年7月にはほかの株主からの譲受け分も含め保有比率が66.68%に。

11年8月NBLは臨時株主総会決議によりFRP管事業を切り出して100%子会社を新設(新設分割)することを決定。

11年9月日立造船がNBLに残る8億円の金融債務のうち5億円を代位弁済した上で、事業と資産を移管する新設分割を実行。

11年10月NBLが日立造船に新会社株式を6,000万円で売却。同年11月、NBLは破産申し立てし配当率16%をもって終結。

2 旧株主の主張

NBLの旧経営陣は、米国ファンドが32億円の値を付けた事業が6,000万円のはずがなく、新会社の株式を低廉譲渡したことが、(1)特別背任に該当する、(2)NBLの少数株主に損害を加えたとして、日立造船の会長を刑事告発するとともに、日立造船に対して損害賠償請求を行っているもようです。

3 旧株主の誤算? 株式の威力

旧株主は、報道によると「会社分割を悪用された」と主張しているもようであり、専門家の間では、本来ならば「事業譲渡」に該当し、NBLが株主総会の特別決議を経なければ譲渡できない資産を、取締役会決議のみで譲渡した点が「法の潜脱」だとの見方があります。

しかし、前記事実関係によると、日立造船は新会社の株式を譲渡するとき、既にNBLの3分の2超の株式を握っていましたので、株主総会の特別決議が必要だったとしても、十分に可決できましたので、「少数株主保護手続の潜脱」と評価することはできても、「法の潜脱」とはいい難いように思います。

やはり、NBLの旧役員の最大の誤算は、会社法の下では、3分の2超の株を確保した者は、その会社を自由にできる、そのことに対する危機感が足りなかった点に尽きると思います。

すなわち、新会社法では3分の2超の株を確保すれば、ほかの株主を排除することすら可能になりますので、役員の選解任はもとより、会社分割も事業譲渡もほぼ自由に決定できます。

私は、資本政策についてご相談を受けたときは、必ず「オーナーが3分の2超を確保して下さい」と申し上げています。この「3分の2超確保」は非常に重要なことなので、経営者の皆様には肝に命じていただきたいところです。

4 デッドロック回避策を着実に実行

他方、私は日立造船が、最初から旧経営陣をだまして、廉価で技術を奪取することを企図していたとも思えません。むしろ、NBLの技術を事業化するために想定を超えるリスクがあることが判明したため、NBL旧経営陣との間で投資方針を巡る対立が激化、止むなく「デッドロック回避策」として契約時に仕込んでいた対策を着実に実行したと理解するのが素直だと思います。

おそらく、旧経営陣は「この技術には32億円の価値がある」との思いが強すぎたのではないでしょうか。その思いの強さが、「とにかく投資さえすれば現金化できる」と、リスク軽視の拡大指向を強めた可能性があります。

他方、投資家目線で見れば、砂漠に水をまくように投資する訳にはいきませんので、投資方針を巡って、旧経営陣と日立造船の対立が激化し、意思決定できない状況または日立造船の意向が経営に全く反映されない状況に陥ったことは容易に想像がつきます。

そこで、「デッドロック回避策」の出番になった訳ですが、次回、このデッドロック回避策について、検討してみたいと思います。

深堀健二氏プロフィール
八重洲総合法律事務所弁護士(証券アナリスト資格保有)。平成5年慶應義塾大学法学部法律学科卒、都市銀行入行、証券会社勤務を経て平成22年12月弁護士登録。
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