深堀健二の兜町法律放談 金融機関と反社会的勢力・後編

兜町法律放談 連載


前回(前編)は、みずほ銀行とオリコによる反社会的勢力との関係に関する問題について、「みずほは広範なリストを作ったが故に不当に非難されている」「証券会社で導入されている警察のデータベースとの接続が銀行では未実施である」ことを個人的見解として述べました。

今回は、銀行が信用保証協会の保証付き融資を実行後、実は融資実行当時から債務者が反社会的勢力であったことが発覚した事件において、裁判所の判断が分かれている件について考えてみたいと思います。

1.みずほは一審勝訴

みずほ銀行は、平成20年7月から平成22年8月にかけて、A社に対して保証協会の保証付きで総額8000万円の融資を実行したところ、平成23年3月にA社が2度の不渡りを出したことから、保証協会に対して保証債務6378万円の履行を求めました。

これに対して保証協会は、警察に確認したところ保証契約締結当時A社は既に反社であった、A社が反社であることを知っていれば保証契約を締結することはなかったとして、保証契約の錯誤無効(民法95条)を主張してみずほの請求を拒否したのです。

一審裁判所は、そもそも保証契約の本質的要素は「主債務を保証する」意思表示に尽き、「Aが反社会的勢力関連企業でないことが保証契約の重要な内容であったということはできない」「主債務者が反社会的勢力関連企業でないことが合意の内容となっていたとは認められない」と、意思表示における当事者意思探求という法律解釈に基いて、「錯誤」にはあたらず、保証協会が保証債務の履行を拒むことはできないと、みずほ勝訴を判示しました。

2.ほかの金融機関は敗訴

ところが、同種事案においては、みずほの判決以外、軒並み「錯誤無効」が認められているのです。

たとえば、みずほと全く同じ債務者Aに対して保証協会保証付き融資を行った金融機関のケースでは、一審敗訴後の高裁判決においても、「仮に結果的にせよ反社会的勢力が信用保証協会制度を利用することができるとすると、その資金需要を公的資金でもって担保することにつながり、社会正義の理念に悖(もと)る結果を招来する」として、「主債務者が反社会的勢力でないことが当然の前提になっている」と錯誤無効の主張を裁判所が認めました。

3.社会的要請と公平なコスト負担

保証協会が保証債務を履行すれば、後は保証協会が主債務者から回収することになりますので、保証協会が保証債務を履行してもしなくても、反社に資金が渡った事実と、反社から誰かが資金を回収する事実に影響はありません。

要するに、裁判所は、この問題を「銀行も保証協会も反社にだまされて融資実行してしまった場合に、誰が債務不履行と回収のコストと労力を負担すべきか」の政策的問題ととらえて、「錯誤無効」という法律解釈で解決を図ろうとしているとしか思えません。

確かに、仮に融資実行時点で主債務者が反社であることを銀行が知り得たとすれば、そのコストは銀行が負担すべきでしょう。

しかし、以前にも述べたとおり、みずほは、おそらく我が国でも最高水準のリストを持っていますから、そのみずほでさえ融資実行時に反社であることを知り得なかったのにもかかわらず、そのコストを負担させることは、金融機関に不可能を強いていることは明らかで、その結果、金融機関がそのリスクに萎縮すれば、保証協会保証付きでなければ融資を受けられない中小企業にとって、金融の円滑を阻害することもまた明らかです。

したがって、仮に政策的問題だととらえたとしても、錯誤無効を認める裁判所の判断には大きな問題があるのではないかと考えます。

私見としては、早急に証券会社と同様に銀行も警察のデータベースと接続し、融資実行時に「警察のリストに該当した」場合以外には錯誤無効は認めない、融資実行後に反社認定された場合には、そのコストは「社会的要請」に基いて、税金で負担せざるを得ないのではないかと考えるところです。

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