特報 グリーンシートのチッソ 発電・液晶材料事業あっても観賞用

特報 連載


旭化成の社長交代以外はこれといったニュースがなかった1月24日、チッソ(4006)が地味ながら面白いリリースを出している。開設から50-100年が経過している水力発電所の老朽対策工事を48億円かけて実施する、というのがその内容だ。

チッソと言えば水俣病。患者への賠償金で債務超過に陥り、1978年10月に上場廃止になって以降、店頭管理銘柄に移行。現在もグリーンシート市場で売買されている。

fig1チッソのルーツは1906年(明治39年)に東大工学部出身の技術者野口遵(のぐち・したがう)が鹿児島に設立した水力発電会社。近隣の金山への電力供給を目的に、九州各地に次々と水力発電所を建設。余剰電力の有効活用のために誕生したのが電気化学工業で、天草の石灰を原料とする化学肥料メーカーとして急成長。一大コンツェルンとなって、朝鮮半島に当事としては世界3番目の規模のダムを作ったほどの会社だった。旭化成も戦前はチッソの子会社だった。

終戦で在外資産をすべて失い、戦後数年で化学肥料の生産過程で発生する有機水銀が原因とする水俣病問題を抱えるに至った。

fig2石油化学の台頭によって、ほかの電気化学メーカー同様、電気化学から石油化学への転換を図ったことは言う間でもないが、同時に液晶材料の販売を開始。その液晶材料事業の画期的な新技術の開発で、需要が本格化する10年も前に主要な特許を押さえることができたため、今や液晶材料ではドイツのメルクと市場を2分。チッソとメルクの2社で液晶材料市場における世界シェアの8割を握り、連結売上高は2,000億円級だ。

参入障壁が非常に高い分付加価値も高く、2011年3月期は240億円もの経常利益を計上している。その後の2年間は世界的な液晶パネルの生産調整の影響を受け、大きく落ち込んだとは言え、それでも100億円以上の経常利益である。今期は前期比1.7倍の175億円の経常利益予想になっている。昨年9月の中間期末時点で液晶材料が含まれている化学品事業セグメントの営業利益は前期の2.2倍。生産調整は解消傾向にあるようだ。

もっとも純益の方は水俣病関連の被害補償で巨額の赤字続き。水俣病関連の特別措置法によって発生金額は年によって変動があるが、もうけはすべて被害者への補償に消える。毎期、期末になるまで金額が決まらないので、純益予想、否、純損予想は出さない。

JNC上場しても「利」無し

11年3月末に本業部分を分社化し、新設子会社のJNCに事業を移管。将来JNCが上場すれば、チッソに入る上場差益もまたすべて水俣病患者への賠償に充てられることになっている。

fig3すっかり液晶材料と化学品のメーカーになっていると思っていたチッソグループだが、実は創業事業の水力発電事業も止めてはいなかった。有価証券報告書の設備の概要のところにも、10年3月期までは発電所が記載されていた。JNCに移管してしまった11年3月期以降は、JNCに移管したほかの資産と合算表記になったので、発電所の記載は消えたが、今も熊本県内に11カ所、鹿児島県内と宮崎圏内に1カ所ずつ、計13カ所の水力発電所を持っている。発電量の3割程度は自社工場で消費し、残りは売っているというのだが、額が小さすぎるせいか、チッソの有価証券報告書にも、JNCのサイトにも売電事業を行っていることは記載されていない。

48億円の投資というと多額に見えるが、チッソグループは毎期、減価償却費と概ね同額の90億円前後の設備投資を実施しており、とりたてて巨額というわけでもなさそうだ。

ところでこの会社、上場廃止から35年以上が経過しているのに、上場廃止当事約5万人だった株主数は今も3万5,000人までしか減っていない。気配値の値動きも激しい。もはやこの会社が債務超過を解消することはない。JNC株式の上場差益にあずかることも株主にはできない。JNCが上場しても、JNC株を公募もしくは売り出しで買わなければ液晶材料事業の利益配分にあずかることはできず、チッソの株主で居続けるメリットは何もない。にもかかわらず値動きは激しい。機関投資家が買える銘柄ではないので、プレーヤーは個人が中心であることは想像に難くないが、果たしてどこまで理解して売買しているのかは知る由もない。買うにも売るにも流動性の低さはネックになるし、債務超過なのに価格が付いているのだから、価格も合理的に形成されているわけではない。世界最先端の液晶材料技術は夢があるとは言え、バクチのつもりでしか投資できない銘柄であることは間違いない。

著者紹介 伊藤 歩(いとう あゆみ)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)
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