深堀健二の兜町法律放談 コーナン商事事件・前編

兜町法律放談 連載


コーナン商事(7516) 日足

コーナン商事(7516) 日足

去る11月、ホームセンター運営大手のコーナン商事(7516)において、コンプライアンスに関する事件が起きました。

同社では、取締役が実質経営する不動産会社が設立登記される前にコーナン商事が取締役会の承認を得ずに土地の賃借契約を結んだなどの事実につき外部指摘を受け、第三者委員会による調査が行われた結果、創業社長が更迭される事態となりました。

今回は、いわゆる「オーナー系上場企業」において、上場前には特段問題が無かったのに、上場した途端に大問題となる「利益相反取引」について検討したいと思います。

1 未上場企業では代表者と会社の資金は混然一体

私の10年間の銀行員生活における経験から申しますと、未上場企業、特に創業間もない企業においては、代表者と会社の資金関係は混然一体となっています。

すなわち、会社の資金繰りが厳しくなれば、代表者がポケットマネーから会社の決済資金を融通するのは当たり前ですし、他方で、賃借している自宅の家賃の支払いや、税金の支払いなど、個人的な使徒に充当するために、一時的に会社の資金から融通を受けることもまた当然に行われていると思います。

そのように個人と会社の資金関係は混然一体となっていて、年に1回、決算の際に、個人・会社間の資金の流れを整理して、「代表者貸付金・同借入金」の金額を貸借対照表に記載することになっていました。

このような個人と会社の混然一体とした資金関係は、未上場企業の場合には、相当程度大きな会社であっても、問題になることなく行われているのではないでしょうか。

2 上場企業では利益相反取引は大問題

ところが、会社が上場した途端、混然一体とした資金関係は大問題になります。

そもそも、会社が役員個人に対して「貸付金」を実行するためには、取締役会の決議を経ることが必要です(会社法356条1項2号)し、その対象は、上場会社に限らず、未上場会社も含まれます。

それではなぜ、上場した途端に大問題となるのでしょうか。もうお分かりと思いますが、上場企業では「少数株主・会社債権者の存在」が大きな違いとなって現れてくるのです。

すなわち、株主が1人で、役員が1名の会社では、会社と役員の経済的利益が完全に一致することから、会社と役員の財布を共通にしたところで、「被害者がいない」状態になりますので、問題になりません。

もっとも、会社債権者からすれば、会社と役員とは別人格ですので、会社の資金を役員の私的利益のために利用されるのは理論上大問題なのですが、未上場企業の多くは銀行融資を受ける際に個人保証していますので、問題になることはめったにないのです。

3 利益相反取引に対する制約の趣旨

これに対して、上場企業においては、株主も不特定多数にわたる上、役員も個人保証することはほぼありませんから、役員個人の利益を会社の損害の下に実現することは、不特定多数の株主および債権者に対して、損害を加えることを意味しますので、「被害者がいない」とは言えません。

そのため、上場会社においては、特に、会社と役員の利益が相反する、「利益相反取引」は厳しく制限されなければならないのです。

今回の事件では、創業社長が、女性役員の実質支配する会社に対し土地購入資金を個人で1億5000万円を融資し、購入した土地をコーナン商事が賃借する契約を結んでいますから、実質的には、「賃料」という会社の資金が、会社→不動産会社→創業社長と還流することで、創業社長の資金回収および不動産会社を経営している取締役の個人的利益に貢献している蓋然(がいぜん)性は高いと言えるでしょう。

したがって、このような一連の取引が、実質的に考えれば、利益相反取引に該当することは明らかだと思われます。

しかしながら、第三者委員会は、この一連の取引について、利益相反取引には該当しないと判断しましたので、次回はその理由について、検討したいと思います。

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