特報 AFPグループ代表への課徴金納付命令勧告

特報 連載


グループにウェッジHDと昭和HD

11月1日、SESC(証券取引等監視委員会)が、タイを本拠地とする投資会社アジア・パートナー・シップ・ファンドグループ(以下、APFグループ)の代表・此下益司氏に対し、偽計取引の疑いで40億9,605万円の課徴金納付命令を出すよう、金融庁に勧告した。

APFグループはウェッジホールディングス(2388・JQ)昭和ホールディングス(5103・2部)の筆頭株主。ウェッジ社については2007年9月、昭和ホールディングスについては08年6月に実施した第三者割当増資の引き受けに応じて筆頭株主になっている。

今回処分対象になったのは、10年3月にAPFのグループ会社で、タイのピピ島で高級リゾートホテル・ジボラリゾートを営むAPFホスピタリティ発行の転換社債を、ウェッジ社が引き受けた取引である。

金額は日本円で8億円。10年3月4日付のウェッジ社のリリースでは、APFホスピタリティの08年12月期の業績は、年商1,653万円で営業損益は1億3,659万円の赤字で、当期純損益は2億123万円の赤字。総資産9億円に対し、純資産は1億8,200万円のマイナスとなっている。つまり、赤字で債務超過の会社発行の転換社債8億円の引き受けである。

償還期限は1年後の11年3月。金利は8%なので、1年分で6,400万円。引受原資の8億円は、日本法人のAPFホールディングスからの借入で賄う、とある。

■業績修正の経緯

ウェッジ社は2カ月後の5月14日の中間決算発表時点で10年9月期の通期業績予想を修正。売上高42億円、営業利益7億2,000万円、経常利益7億円、当期純利益2億5,000万円の期初予想を、売上高39億円、営業利益8億4,000万円、経常利益8億円、当期純利益4億5,000万円とした。

結局着地は売上高36億9,900万円、営業利益8億200万円、経常利益7億6,100万円、当期純利益3億6,900万円となり、利益は期初予想を上回ったものの、修正予想は下回った。

SESCは、「債務超過状態にあったホスピタリティからの受取利息等の投資収益の増加は見込めず、上記社債に8億円の資産価値など認められないにもかかわらず、(中略)同社債の資産価値に疑義を抱かせるような重要な事情を一切考慮しない内容の業績予想数値などの公表を行いウェッジ社の株価をつり上げた」としている。

APFからウェッジ社が借りた8億円は、ウェッジ社からホスピタリティに払い込まれ、その後間もなくAPFグループ内に移されているから、要はAPFグループ内でカネがぐるっと回っただけ、というのがSESCの主張だ。

刑事事件にしなかったのは、証言をとるべき相手がタイに居て、刑事事件の立件に必要なレベルの証拠固めが困難だからだという。

■巨額課徴金の根拠

課徴金の額が41億円弱という巨額になった計算根拠はこうだ。まずAPFグループ各社の名義に分散している株式は、10年3月4日時点で13万2,134株あり、これを事実上全部此下氏の所有と見なしている。

公表前日の3月3日終値が1万2,100円だったウェッジ株は、3月5日以降みるみる上昇。3月16日に3万9,250円を付けた。だがこの日を境に株価は反転。4カ月後の7月半ばには元の1万2,000円前後に戻り、その後は下落の一途をたどった。

SESCは、APFグループのウェッジ株式の取得価格を公表直前に1万2,000円として、最高値3万9,250円ベースの含み益を36億円と算出。

さらに、この時点で保有していたウェッジ発行の転換社債で転換が可能だった1万8,180株についても同様の計算をし、4億9,540万円と算出。合計で41億円弱というわけだ。ただ、APFは株を売却していない。含み益が一瞬41億円になったから、それが不当利得だとされている。

課徴金を課されたのは此下氏個人だが、SESCの理屈だとウェッジ社も架空のファイナンスに加担した張本人。ジボラリゾートは順調で、この言われようは心外、黙っていられないので審判や裁判では此下氏に全面協力する、というわけだ。

問題の10年9月期の修正も、修正純益予想の4億5,000万円と着地の3億6,900万円の乖離(かいり)率は18%。予想修正の公表義務は3割以上なので、予想修正公表義務すらないレベルだ。一瞬の含み益41億円がまるまる課徴金というのも、素人には無理筋に見える。10年6月の強制調査後、ほとんど連絡がないまま3年半近くが経過した今、いきなり課徴金というのも、ほかの事例にない唐突さだ。

そうなるとSESCには別の思惑があるのではないかと考えるのが普通だろう。APFは投資家との間で訴訟を抱える身。APFのもう1つの投資先である昭和ホールディングスとの関連も気になる。

昭和社もまた多くの訴訟を抱える身であり、ウェッジ社の直接の親会社でもある。10年6月にウェッジ社がSESCから強制調査を受けた際の強制調査先になっており、SESCの不当な調査で信用を傷つけられたとして、今年6月に国家賠償を求める訴訟を起こしており、この訴訟との関連は疑わざるを得ない。

ちなみに、今年5月に粉飾で課徴金納付命令を受けた日本風力開発の審判は、期日が延期されたままいまだに始まっていない。果たして今回はどうなるか。注目したい。

ウェッジホールディングスの業績推移
売上高 営業利益 当期純利益 総資産 純資産 自己資本
比率
ROE ROA 期末株価 PER PBR
03/9 571 124 71 422 321 75.9% 22.1% 16.8%
04/9 576 139 66 1,066 964 90.5% 6.8% 6.2% 150,000 59.4 4.4
05/9 1,337 94 ▲534 2,304 1,613 70.0% -33.1% -23.2% 154,000 3.6
06/9 3,277 96 ▲717 3,425 1,445 39.5% -49.6% -20.9% 68,800 2.1
07/9 2,593 ▲265 ▲525 2,834 1,435 50.6% -36.6% -18.5% 19,150 0.9
08/9 2,139 62 81 2,521 1,380 54.8% 5.9% 3.2% 10,000 8.4 0.5
09/9 2,417 137 204 7,882 3,800 32.6% 5.4% 2.6% 13,600 8.1 1.0
10/9 3,699 802 369 10,065 5,491 40.2% 6.7% 3.7% 12,910 8.1 0.8
11/9 3,727 1,037 175 9,468 5,936 45.1% 2.9% 1.8% 8,000 12.1 0.5
12/9 3,319 842 172 10,456 6,503 42.5% 2.6% 1.6% 6,510 10.2 0.4
13/9計 4,900 950 650 32,200 13.4
※金額は株価は円、株価以外は100万円。PER、PBRは実績ベースで単位は倍。▲は赤字。
昭和ホールディングスの業績推移
売上高 営業利益 当期純利益 総資産 純資産 自己資本
比率
ROE ROA 期末株価 PER PBR
03/3 4,165 ▲259 ▲1,030 7,168 3,843 53.6% -26.8% -14.4% 16 0.3
04/3 3,503 34 30 7,002 3,879 55.4% 0.8% 0.4% 38 102.7 0.8
05/3 3,450 60 50 6,995 3,931 56.2% 1.3% 0.7% 49 79.0 1.0
06/3 3,411 7 ▲1,900 6,809 4,575 67.2% -41.5% -27.9% 69 1.8
07/3 3,649 ▲63 ▲281 10,377 8,106 78.1% -3.5% -2.7% 167 0.5
08/3 3,900 ▲136 ▲2,412 8,375 6,242 74.3% -38.6% -28.8% 105 0.5
09/3 3,903 ▲261 ▲1,297 8,295 6,106 73.6% -21.2% -15.6% 40 0.3
10/3 3,126 ▲421 155 8,764 6,546 74.2% 2.4% 1.8% 43 12.6 0.3
11/3 3,361 ▲547 ▲3,260 5,624 3,293 57.7% -99.0% -58.0% 25 0.4 0.4
12/3 5,956 366 2,037 14,383 9,853 37.1% 20.7% 14.2% 79 1.8 0.7
13/3 7,405 758 101 22,200 12,200 25.9% 0.8% 0.5% 72 33.0 0.6
※金額は株価は円、株価以外は100万円。PER、PBRは実績ベースで単位は倍。▲は赤字。
著者紹介 伊藤 歩(いとう あゆみ)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)
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