深堀健二の兜町法律放談 みずほ証券誤発注事件高裁判決2

兜町法律放談 連載


前回、みずほ証券誤発注事件の一審判決が、東証に(1)取消処理ができるシステムを提供しなかった点に債務不履行あり、(1)売買停止義務を履行せず漫然放置した点に債務不履行・重過失あり、(3)責任割合はみずほ3:東証7である、と判断したことを確認したところですが、今回は、先日の二審判決の内容を検討したいと思います。

■二審判決の争点

二審は、一審が認定した東証の2つの債務不履行を認めつつ、それらの点につき「東証に重過失があったか否か」が最大の争点となりました。通常、債務不履行責任を問うには軽過失でも足りるのですが、東証・みずほが締結している取引参加者契約に東証の免責条項が存在することから、みずほは東証の重過失を主張立証する必要があったのです。

■バグ発見の容易性

実はこの判決は、判決が出た直後からIT業界で注目を集めていました。といいますのも、みずほ側が誤発注の取消処理ができなかったのは、東証のプログラムに存在したバグによるものであり、当該バグは容易に発見できたのだから東証には重過失があると、「バグ発見の容易性」を争点にしたからです。

この点については、東証からは「発見は困難だった」、みずほからは「発見は容易だった」とするIT・プログラミング専門家の鑑定書が多数提出されました。

結局、裁判所はどちらを認定するのか決め手を欠き「一定の蓋然(がいぜん)性のある事実として本件バグの発見が容易であることを認定することが困難であったということに尽きる」「本件不具合が複数の条件が重なることにより発生する性質であったことも、結果の予見が可能かつ容易であったとの認定を阻む」と、事件当時バグの発見が容易だったとはいえないと、みずほの主張を認めませんでした。

■売買停止義務違反

次に、裁判所は以下の事実関係を認定し、一審判決と同様、東証に売買停止義務の不履行があったことを認めました。

9時27分56秒 みずほ従業員Aが「1円で61万株」売り注文。警告画面が表示されるも意味を確認せずEnterキーを2回押下し発注。

9時28分ごろ Aは気配表示がなくなった板画面を見て売買成立を認識。同僚Bが多量の発注に気付いたところAが本件売り注文をしたと申告しBは誤発注と認識。

9時29分21秒 Bは自ら取消注文を入力するも不可。この時点で既に1822株の売買が約定。

9時29分46秒 東証売買監理グループリーダーVがみずほに電話し真正取引か確認求めるも対象銘柄のコードを誤って伝える。

9時30分ごろ 東証銘柄担当は株式総務グループへ異常注文を伝達。

9時30分39秒 東証Vは銘柄コードの誤りに気付き訂正の上みずほに確認を求める。

9時32分39秒 東証Vはみずほに電話し「売り注文が残っているが大丈夫か」「今対応中だと思う」「よろしくお願いします」と対応。その後東証は「売買停止すべき」「取引機会を奪うべきでない」など議論しながら、みずほにより取り消されると考え、板を注視していたものの、9時33分25秒には約定数が発行済株式数の3倍を超える4万3535株に達しその後も増加を続けた。

9時35分ごろ みずほCは反対注文により自ら約定する方法を思いつき9時37分17秒までに本件売り注文は板から消えた。

9時37分25秒ごろ 東証は売買停止を行うべきと判断しみずほに電話したところ反対注文で板から消えたと聞く。

いやあ・・・本当に手に汗を握るというか、背中から嫌な汗が出てきますね。みずほ従業員が誤入力してからわずか2分30秒で発行済株式総数の3倍もの取引が約定しています。

裁判所は、上記の事実関係を前提に、遅くとも約定株式数が発行済株式総数の3倍を超えた9時33分25秒ごろの時点では借株による決済の可能性も失われた、その後のオペレーションに要する時間として1分を考慮しても、9時35分00秒までには売買停止が可能であったとして、同時刻における義務違反を認定するとともに、売買停止措置を講じなければ投資家に損害が生じることは予見可能であり、かつ、措置を講じることは容易であったとして、東証の重過失を認定しました。

その上で、みずほに生じた損害を9時35分00秒以降の約定分から自己対当分を除く5万2413株の売却損に相当する約150億円、うち東証の責任割合を7割と判断しました。

二審判決は、おおむね一審判決を踏襲する内容であったと言えますが、なぜ、みずほはバグの発見の容易性を主要な争点にしてきたのでしょうか。もうお分かりのとおり、バグの点に東証の重過失が認められていれば、「バグが無ければ取消処理により何の問題も起きなかった」として、裁判所が認定した9時35分00秒以前に約定した分の損害も、理論上は全額賠償が認められることになるからなのです。

少なくともみずほは控訴したようですので、動向を引き続き見守りたいと思います。

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