深堀健二の兜町法律放談 みずほ証券誤発注事件高裁判決

兜町法律放談 連載


2005年(平成17年)に発生した「ジェイコム株大量誤発注事件」について、去る7月24日、東京高等裁判所が、第一審での東証への賠償命令を支持する判決を下しています。本紙読者の皆様には強い関心のある判決と思われますので、今月はこの判決についてポイントを検討したいと思います。

■事案の概要

みずほ証券が「61万円で1株」の売り注文を出そうとしたが誤って「1円で61万株」の注文を発し、東証のシステムで受け付けられた後、注文の取り消しを発したものの、東証のシステムに不具合があったことから注文取り消しが実現しないまま、発行済株式数を大幅に超過した数の株式取引が約定したとして、みずほ証券が東証に対して売却損など約404億円の損害賠償を請求した事件です。

東証は、(1)東証が取引参加者に対して負う義務は市場施設を提供する義務であり、合理的信頼性のある市場システムを提供していたのだから債務不履行は無く、付け合せ停止や売買停止を行うかにおいて東証の裁量逸脱もない。(2)東証に重過失は無いから取引参加者規程により免責される。(3)仮に責任があるとしてもみずほ証券にも重過失があり相殺されるべきである。と主張し争っていました。

■第一審判決のポイント

第一審(東京地裁平成21年12月4日)判決は、東証に、404億円のうち約107億円の支払義務があることを認めました。

争点(1)について、まず、東証は取り消し注文制度を採用していた以上、取り消し注文が実現されるシステムを提供する義務を負っていたが、みずほ証券のシステム上で取り消し注文が実現されないという不具合が存在したと、東証に債務不履行があったと裁判所は認定しました。

次に、争点(2)について、東証が誤発注と認識した以上、売買を停止すべきであったかについて、「決済の可否に問題が生じかねない状況を認識しながら具体的検討を欠いたことにより売買を停止しなかった場合」には、市場参加者との関係で違法となると判断基準を示しました。その上で、「遅くとも約定株式数が発行済株式数の3倍を超えたころまでには売買停止の立案を決定すべきであったし、売買停止が可能であった」と、売買停止を怠った点について注意義務違反を認めました。さらに、「その株数の大きさや約定状況を認識し、それらが市場に及ぼす影響の重大さを容易に予見することができたはずであるのに、決済の可否の点についての実質的かつ具体的な検討を欠き、これを漫然と放置するという、著しい注意欠如の状態にあったものである」と、東証の人的対応を含めた全体としての市場システムの提供義務に関する重過失を認定しました。

最後に、争点(3)について、裁判所は、みずほ証券側にも、「株数と株価を間違えるという初歩的ミス」「警告表示を無視するという著しく不注意な発注操作」「単純な過誤による損害発生を防止するための発注管理体制などの不備」の点で過失があると認定しました。

他方で、東証の過失について、「世界有数の取引高を有する証券市場を開設するもの」であって、「所定の機能を有する売買システムを参加者に提供すべきであった」「担当者において市場に混乱を来たし得ることが明白であって、売買管理上、売買を継続して行わせることが適切でない可能性のある本件売り注文の存在を認識しながらも、その実質的かつ具体的な検討を行わないまま、売買停止の判断を遅滞させ、結果として原告の損害を拡大させたものであり、このような不完全なシステムを根幹システムとして提供した被告の過失はより重大である」と、原被告の過失割合は、原告3割、被告7割と、東証に7割の責任を認める判決をしました。

それでは、次回は、先日の高裁判決を一審判決と比較しながら検討したいと思います。

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