特報 天龍木材のMBO スルガによる再建の仕上げの側面も

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難解? プレスリリース

天龍木材(7904) 月足

天龍木材(7904) 月足

8月22日、天龍木材(7904・名2)がMBO(経営陣による買収)の実施を決めた。買収者はティー・ジィー・シィー株式会社(以下、TGC)。天龍木材の3人の取締役が作ったSPC(時定目的会社)だ。伊藤徹副社長に、山崎直哉、鈴木邦利の両取締役というのが3人の顔ぶれだ。

MBOのプレスリリースを読むのは久しぶりなのだが、相変わらずわざわざ難解な書き方をしているとしか思えないあたりが実に不愉快だ。上場会社のプレスリリースを読み慣れている筆者でも、主語を見つけ、次にその主語につながる述語を見つけるのは結構大変だ。ついつい大学受験の英文読解を思い起こしてしまう。

最近の上場会社のプレスリリースは、まあまあ個人投資家でも理解が可能な程度の平易さで書かれている。ファイナンス関連のものだと、やっていることそのものが難しいので、その意味では平易ではないものも多いが、文面そのものが難解なわけではない。

だが、ことスクイーズアウトのリリースとなるといきなり難解になる。偏屈な裁判官だってこんな判決文は書かないぞと言いたくなる。

今回のケースでいうと、比較的最初のほうに、第2位株主のテレフォーラムが所有する51万3,000株と、第4位株主のスルガ銀行が所有する39万9,370株の応募契約がとれている、ということが記載されている。

自己株を除くと、テレフォーラムの所有分は5.75%、スルガ銀行の所有分は4.43%なので、合計10.18%分の応募契約はとれています、という内容の記載である。

内容自体はそう複雑なものではないのに、プレスリリースの記載は難解を究める。何が書いてあるのか、さっぱりわからない文章になっているのだ。

プレスリリースがこの説明に使った行数は19行。1行あたり40字なので、ワードの基本ページ画面を思い浮かべていただくと、およそあの半分に相当する。

プレスリリースでは、このワード半ページ分が、1文で書かれているのである。途中に多数のかっこがはさまれ、かっことかっこが連続している上、二重かっこも駆使されている。特にひどいのがテレフォーラムの保有株に関する説明だ。主語である「テレフォーラム」につながる「が所有する当社普通株式のすべて」までの距離が実に12行。「が所有する当社普通株式のすべて」につながる「について、それぞれ本公開買い付けに応募することを内容とする公開買い付け応募契約を締結しております」までの距離がさらに3行弱の距離がある。その3行弱に、スルガの保有株に関する記載がはさみこまれているのだ。

このプレスリリースの文面は、公開買い付け者であるTGCの目論見書の文面をそっくりコピペしたものなので、そもそもはTGCの目論見書がこういう、わざと読解不可能な書き方をしているということなのだ。

天竜木材の業績推移
売上高 営業利益 当期純利益
1995/3 39,874 998 1,013
96/3 42,216 43 -1,243
97/3 44,329 577 -672
98/3 38,165 -726 -1,499
99/3 23,377 129 -331
2000/3 23,239 706 48
01/3 21,682 172 -483
02/3 18,364 424 2
03/3 19,725 648 136
04/3 19,576 486 187
05/3 21,645 693 -4,784
06/3 19,720 582 3,141
07/3 21,490 719 366
08/3 20,475 366 -209
09/3 16,684 265 -222
10/3 15,029 353 47
11/3 16,347 489 65
12/3 16,018 313 123
13/3 17,175 298 46
14/3(予) 18,862 396 100
※単位:百万円

文句はこのくらいにして、今回の条件を検証してみよう。まず買い付け者の属性だが、伊藤徹副社長は元スルガ銀行常務。2006年の5月に顧問として入社、翌月の総会で代取副社長に就任した人物だ。山崎、鈴木両氏はプロパー。天龍木材には社長以下8人の取締役がおり、伊藤氏ともう1人、合計2名がスルガ銀行出身で、あとの6人はプロパーだ。

天龍木材は1990年代半ば以降、産廃事業に失敗したり、市況低迷で木材事業が苦境に陥ったり、住宅事業に参入して失敗したりで赤字が続いた。

2000年3月期に債務超過に転落、64億円の債務免除で上場廃止を免れているが、05年3月期に事業再生損失50億円を計上したため再び債務超過に転落。産業活力再生法の適用を受け、スルガ銀行が30億円の債権放棄と20億円分のデットエクイティスワップに応じた。このときに発行されたのが400万株の優先株である。

ようやく業績が落ちついてきたところで上場廃止というのはありがちなパターンではあるが、20億円相当の優先株を会社が買い取れない限り復配は望めない。普通株の株主にキャピタルゲイン以外の恩恵はない。この優先株の存在があるため、純資産はプラスでも一株純資産の計算上は常にマイナスだからだ。

今回のTOB(株式公開買い付け)価格は1株当たり75円。TOB公表日の8月22日終値は64円なのでプレミアムは17%。MBO一般のケースとしては低水準だが、株主資本が5億円強しかなく、利益水準から考えて期間損益を積み上げて20億円の優先株を買い取れるまでには相当の年数を要する計算になる。ぴかぴかの優良企業のMBOとは異なり、本来のスクイーズアウトの目的に合致する類のディールと考えて良いだろう。

スルガは今回、TOBが成立したら、優先株をTGC側に取得価格と同額の20億円で売却することを了承しているという。

TOB自体にかかる資金はわずか7億円強だが、公開買付届出書を見ると、TGCはスルガに29億円の当座貸し越し枠があり、今回はこの貸し越し枠をTOB資金の調達源として記載している。

TOBで7億円弱、優先株買い取りで約20億円の合計27億円、諸経費込みで29億円の枠ということなのだろう。つまりはスルガの中でカネがぐるぐる回るだけに見える。今回のMBOはスルガによる天龍木材再建の仕上げという意味のものなのかもしれない。

著者紹介 伊藤 歩(いとう あゆみ)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)
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