特報 野田スクリーン(6790)がMBO 36億円の現預金を持つ会社を30億円の資金で買う

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野田スクリーン(6790) 月足

野田スクリーン(6790) 月足

11月は21日のカワムラサイクル、27日のセレブリックスと、2件にとどまったキャッシュアウト目的のTOB(株式公開買い付け)。株価も上昇傾向にあり、今月はもう出ないかと思っていたら、17日にプリント配線基板加工の野田スクリーン(6790・2部)がMBO(経営陣による買収)を発表した。創業家の野田一族によるMBOである。

TOB価格の4万5700円は、プレミアムこそ公表当日終値比66・18%と高水準だが、一株純資産は6万6586円もあるので、PBR(株価純資産倍率)は0・68倍と低水準。

自己資本比率は実に90・8%。76億円の総資産のうち、現預金が36億円を占める。2012年4月期の年商はわずか31億円だから、年商以上の現預金を持っていることになる。2億5300万円の投資有価証券と合計すると、金融資産は38億9456万円。総資産の5割以上が金融資産という、アナリストが聞いたら「キャッシュを有効活用出来ておらず、レバレッジも効かせていないぶよぶよ体質の非効率な会社」とか何とかぼろかすに言われそうな会社だ。

そこでTOB価格が1株当たり現預金や1株当たり金融資産以下ということはないか検証してみたところ、1株当たり現預金は3万4959円で一株あたり金融資産は3万7391円。取りあえずTOB価格以下ではある。

今回の買収に必要な資金はおよそ30億円。時価総額は30億円程度の会社だが、6割もプレミアムを乗せるのだから、TOB価格ベースで時価総額を計算するとざっと48億円。野田一族の保有割合が44%強なので、親族の一部が応募する前提でも30億円で済む。

36億円の現預金を持つ会社を30億円の資金で買うことになるわけだが、資金の出し手は今回は三井住友銀行。買収のために設立したSPCが、諸経費も含めて35億円を、13年6月を弁済期日とするタームローンで調達する。

キャッシュリッチ企業のキャッシュアウトのためのTOB資金融資は、銀行にとって極めておいしい商売だ。買収会社であるSPCは、TOBのために借りた借金を買収する会社にツケ回せる。

キャッシュアウトをしようというオーナーも、引退モードの人でない限り、経営権は手放したくないし、そのために支配権も手放したくない。資金の出し手がファンドだと、いつクビにされるか分からないということは、過去の事例から既に学習している。

そこで支配権を脅かされる心配がない銀行のローンを選ぶことになり、銀行としてもこれほど安全確実でもうかる融資はほかにないわけだから、完全に利害が一致する。

野田スクリーンの公開買付届出書を見る限り、TOB資金は全額借金。出資の記載はない。キャッシュアウトで少数株主を追い出したら、現野田スクリーンとSPCは合併する。

三井住友から借りる35億円のうち、どのくらいがその後長期ローンに組み変わるのかまでは公開買付届出書には記載がない。

ファンドが一切関与していないので、おそらく30億円の現預金がまるまる会社から持ち出され、借金の返済に充てられてしまうことはないだろうが、少なくとも無借金、自己資本比率9割の会社が、最大35億円の借金を背負い、自己資本比率が5割程度にまで下がる可能性は十分にある。

チムニーの再上場を引き合いに出すまでもなく、今後株式相場の地合が良くなれば、キャッシュアウトを実施する企業が減る一方で、過去にキャッシュアウトで市場を去った会社の再上場ラッシュが到来するだろう。

もともとキャッシュアウトは優良企業でなければ基本的には出来ない。優良会社でなければTOB資金が調達できないからだ。自己資本比率もかなりの高水準だから、TOB資金の借金をツケ回されても、ようやく“レバがほどほどに効いた会社”になるだけだ。

過去に追い出された株主は、再上場をしてくるキャッシュアウト企業の〝変容した姿〟をよく見て、収益は大して向上していなかったり逆に減ったりしているのに、金融資産だけはごっそり抜けていることをその目でよくよく見るべきだろう。

野田スクリーンの業績、財務データ
決算期 売上高 営業利益 純益 純資産 総資産 自己資本比率 配当性向
00/4 3,141 713 364 1,509 2,986 50.5% 2.6%
01/4 4,908 1,289 649 4,651 6,086 76.4% 4.3%
02/4 2,840 123 22 4,642 5,899 78.7% 129.0%
03/4 3,031 383 121 4,717 6,155 76.7% 24.4%
04/4 3,383 635 338 5,080 6,174 82.3% 12.8%
05/4 3,852 735 289 5,323 6,393 83.3% 26.6%
06/4 4,211 854 520 5,838 6,702 87.1% 21.1%
07/4 5,167 1,287 738 6,457 7,482 86.3% 14.9%
08/4 4,652 791 464 6,612 7,354 89.9% 28.1%
09/4 3,164 106 6 6,430 6,861 93.7% 1585.0%
10/4 3,730 629 399 6,748 7,606 88.7% 21.4%
11/4 3,308 248 173 6,810 7,274 93.6% 36.9%
12/4 3,107 272 235 6,935 7,635 90.8% 26.7%
※単位:100万円
著者紹介 伊藤 歩(いとう あゆみ)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)
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