特報 川崎重工M&A破談を決算から見る 新経営陣に船舶事業立て直しの宿題

個別 特報 連載


川崎重工業(7012) 週足

川崎重工業(7012) 週足

株主総会を控えて突然勃発(ぼっぱつ)した川崎重工業(7012)のお家騒動。社長の長谷川聡氏、副社長の高尾光俊氏、常務取締役の廣畑昌彦氏の3名が解任され、代わって新たに社長に就任するのは常務取締役の村山滋氏。

クーデター前の時点で、川崎重工業には13人の取締役が居たが、有価証券報告書の役員欄の記載順でいうと、長谷川氏は大橋忠晴会長に次ぐナンバー2。この下の2名の副社長が続き、今年の総会で退任が決まっている瀬川雅司氏に次いで、高尾氏は4番目。5番目が瀬川氏同様今年の総会で引退が決まっている神林伸光常務。残る8人の取締役も全員常務で、この会社にヒラ取はいない。新たに社長に就任する村山氏は神林氏も含めた9人の常務のうち4番目。廣畑氏は9人の常務のうち7番目である。

川崎重工は(1)船舶海洋、(2)車輌、(3)航空宇宙、(4)ガスタービン・機械、(5)プラント・環境、(6)モーターサイクル&エンジン、(7)精密機械、(8)その他の8部門でセグメント開示をしている。

大橋会長以下、車輌出身の取締役が4人居て、ガスタービン部門出身は長谷川氏、廣畑氏ら3人。高尾氏は財務経理畑で、新社長の村山氏はただ一人の航空宇宙出身者である。船舶出身は今回退任が決まっている神林常務だけだ。

この件、日本経済新聞が4月22日の朝刊で三井造船(7003)との統合をスクープし、会社側が一度は否定したので誤報扱いになりかけた。だが後に会社側が統合交渉の事実を認めるという経緯があっただけに、日経は統合への反対が社長解任の理由になるのかどうかや、代表取締役に、M&A(企業合併・買収)の交渉においてどこまで権限があるかといった、M&Aの手続や企業統治の視点からかなり積極的に取り上げている。文面からは解任に批判的な印象を受ける。

そこで、今日は川崎重工と三井造船の統合効果を決算の視点で検証してみたい。

川崎重工業と三井造船の直近業績比較

川崎重工業と三井造船の直近業績比較

2003年3月期から現在までのセグメント別の業績を追って見ると、船舶は売上高、営業利益ともにいかにも旗色が悪い。村山新社長の出身部門である航空宇宙は近年急速に利益の稼ぎ頭になっていることが分かる。モーターサイクル、エンジンは10年3月期に多額の減損を実施し、巨額の部門赤字を計上しているが、新興国向けの2輪車用エンジンが好調で、この部門も稼ぎ頭として急浮上している。

一方、統合相手だった三井造船はどうか。造船という社名の通り、造船部門のウエートは当然に高い。会社全体の年商は川崎重工の半分程度だが、船舶部門だけの比較で言えば川崎重工の4倍近い年商で稼ぎだす営業利益は約2.5倍。13年3月期は造船部門の製造設備で230億円の減損を実施しているため、82億円もの最終赤字を計上したが、14年3月期は50億円の最終益を見込む。

川崎重工側が造船をテコ入れすべしとするならば、この数字を見る限りにおいては悪い話ではなかったように見える。今年4月25日公表の川崎重工の中期計画では16年3月期の売上高目標は1兆6,000億円で営業利益目標は900億円。16年までの営業利益の成長計画は、精密機械部門だけが11.7%と高い伸び率になっているが、車輌、航空宇宙は7%、ガスタービン・機械、プラント・環境、モーターサイクル&エンジンは5-5.7%となっており、船舶も4.4%となっている。

船舶は900億円の年商を1,350億円にする計画になっていて、中期計画に年商5,777億円の三井造船との経営統合は織り込まれていないことは明らかだ。

日経は長谷川氏の解任理由について、株主への説明が必要だと説いている。原因が三井造船との経営統合にあることは明白なので、船舶事業をどうするつもりでいるのか、その覚悟のほども含め、三井造船との経営統合を是が非でも阻止しなければならなかった、合理的な理由の説明はぜひ聞いてみたいところだ。

川崎重工業の業績推移

川崎重工業の業績推移

 

著者紹介 伊藤 歩(いとう あゆみ)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)
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