特報 ローランドMBO続報 大株主の狙いはDG株売却益か

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前回取り上げたローランド(7944)のMBO(経営者の参加する企業買収)。今回はローランドの大株主であるTAIYOの狙いをより具体的に想定してみた。

まずはローランドのバランスシートがどう変遷するか、考えてみよう。2014年3月期末時点でローランドの総資産は840億円、純資産は631億円だが、このうちローランドDG(6789)分がそれぞれ389億円と306億円。DGが子会社でなくなると、ローランドの総資産はざっと450億円、純資産は325億円に減る。

ローランド(7944) 週足

ローランド(7944) 週足

損益の方はというと、ローランドの14年3月期の連結売上高、連結営業利益はそれぞれ856億円と77億円だが、セグメント別で言えば、電子楽器部門が432億円の売上高で営業利益が13億円。これに対しコンピュータ周辺機器部門、つまりDGが属する部門が423億円の売上高で62億円の営業利益。この額はDGの連結業績とニアリー・イコール。

つまりは、DG株を現金化して連結から外すと、ローランドの売上高、営業利益は電子楽器部門だけになり、売上高も営業利益も急減してしまう。

現在の株価はDGの実績が反映されていればこその水準だろうから、DGを連結から外せば株価の暴落は間違いない。

ただ、ローランドの株主からは、業績回復が見込めないなら優良資産を現金化して株主に分配せよという意見が出てもおかしくない。しかもその分配利益をできれば独り占めしたいと考える。これは投資家としては当然の行動原理だ。

そこでTAIYOはDG株の売却益を独占すべく、スクイーズアウトを計画したと考えるとすべてのつじつまが合う。

TAIYOは今回のローランドのMBOのために、常若コーポレーションというSPCを設立、ここでTOB(株式公開買い付け)を実施している。応募が下限を上回り、TOBが成立した暁に必要になる資金は417億円。417億円の調達の内訳はりそなからの借入が325億円に出資112億円。

ローランドは上場廃止後、全部取得条項付き種類株発行という、お決まりの少数株主追い出しパターンで、少数株主の追い出しがすべて完了したら、常若に吸収合併されるので、この325億円の借金は全額ローランドにつけ回される。

ローランドには、DG株から130億円が支払われているので、りそなからの借入325億円は、この130億円を充当させることで、まずは195億円まで減る。

DG(6789) 週足

DG(6789) 週足

次に残る2割のDG株の処分をどうするか。DGは目下のところ業績絶好調。自己株取得のために130億円もの借金を背負い、自己資本比率はいったん4割まで下がるが、14年3月期のEBITDA(償却前営業利益)は69億円。今期は少なくとも80億円は行く。有利子負債はEBITDAの1.6-1.8倍でしかない。DGの14年3月期のフリーキャッシュフローは51億円、しかも現預金が110億円もあるので、おそらく2年以内に完済できてしまうだろう。

そうなったらTAIYOとしてはもう一度、残る2割の自己株取得をDGに迫れば、DG株の現金化はめでたく完了する。

DG株のローランド側の簿価は29億円。DGの株価が現在のままだとしたら、含み益は約230億円になる。TAIYOは110億円の出資で、速ければ2年で230億円のリターンを獲得できる。バラ色を通り越して黄金色にさんぜんと光り輝くグッジョブ。

以上はすべて、ローランドのTOBが成立した場合のシナリオだが、成立しなかったらどうなるか。ローランドのTOBが成立してもしなくても、DGの自己株取得は撤回されない。故にTOBが成立しなくても、DGはローランドの連結から外れる。DGが実施中の自己株取得のTOBは、ローランドのTOBよりも2週間早い6月11日で終わる。

従って、第1四半期末でローランドとDGの親子関係は切れ、ローランドの業績はDGの業績が反映されなくなる第2四半期から急落するが、DG株の売却益推定115億円(含み益230億円の半分)が特別利益に計上される。

従って、ローランドの15年3月期は最終大幅増益ということになるのだろうが、翌期以降は最終損益も急落することになる。DG側に残り2割を追加取得できる余裕ができるまでの2年の間は、ローランドの業績も株価も低迷することになるだろう。

つまり、ローランドの株主にもはや抵抗の余地はないのだ。TOBが成立しなかったら取り返しがつかない損を被るのは既存株主自身だ。

ローランドのTOBが成立するかしないかにかかわらず、DGが自己株取得をしてローランドと親子の縁を切る以上、もはやローランドの株主は退路を断たれたも同然。この上は、DGへのDG株売却自体を差し止めない限り、ローランドの株主に、TOBへの応募以外の選択肢はない。

創業者で筆頭株主・公益財団法人ローランド芸術文化振興財団の理事長を務める梯禎治郎氏が中日新聞のインタビューに答え、MBOに反対しながら諦めともとれる発言をしているのも、TAIYOの保有割合がわずか9%、そのうえ筆頭株主の財団理事長が反対しているにもかかわらず、三木純一ローランド社長がTOBの成立に自信満々なのも、DGの自己株取得があってこそだろう。TAIYOのしたたかさには舌を巻くしかない。

一方、こんなディールを仕組まれて、ローランドのほかの株主が誰も手も足も出ないというのは何とも情けない。何らかの抵抗があるのだろうか。

【用語説明】
■スクイーズアウト=少数株主排除。ある会社の株主を大株主のみとするために、少数株主に対して金銭などを交付して排除、株主存続会社や親会社の株式を保有させないようにする合併手法。MBOなどの完全子会社化を目指すTOBで出てくる。締め出し合併とも称される。

■SPC=特別目的会社。資産の流動化や証券化など、限定された目的だけのために設立される会社のことで、通常はペーパーカンパニー。

著者紹介 伊藤 歩(いとう あゆみ)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)
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