特報 ローランドMBOの行方 DG株の含み益は230億円

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久々にアドレナリンが全開になりそうなMBO(経営者の参加する企業買収)が登場した。5月14日からTOB(株式公開買い付け)が始まっている、ローランド(7944)のMBOである。

ローランドとDGの時価総額推移

ローランドとDGの時価総額推移

買い付け者は常若コーポレーション。本件MBOのために設立されたSPCで、代表はローランド社長の三木純一氏だが、出資は100%タイヨウファンド。米国の著名投資家・ウィルバー・ロス氏のファンドである。幸福銀行を買収したり、東京相和銀行のスポンサーに名乗りを上げたりといったこともあったが、優良小型株に小まめに投資し、経営者に牙をむかない外国人投資家である。ローランド株の取得開始は2008年4月。現在9%を保有している。

TOBに必要な資金約417億円のうち、325億円はりそな銀行からの借り入れだが、残りの112億円はタイヨウの出資。三木氏もTOB終了後に常若に出資するとあるが、サラリーマンの三木氏に数百億円の出資ができるとは思えない。従って、このMBOはタイヨウによるローランドのスクイーズアウトと言っていい。

買い付け単価は1,876円。TOB開始当日終値が1,584円だから、プレミアムはわずか18%。一株純資産の1,969.67円も5%ほど下回っている。

■かつての「ニッポン放送とフジテレビ」

アドレナリンが全開になるのはここからだ。ローランドはローランド ディー.ジー.(6789、以下DG)という優良子会社を持っている。保有割合は40%で、ローランドの連結対象になっている。社名にこそローランドという名が付いているが、プロ向けのプリンターの会社で、ローランドとの間で事業上の接点は全くない。現在DGにローランドの役員ポストはない。現代表の冨岡昌弘氏はDG社設立の翌年にDG社に移籍しているプロパーだし、冨岡氏以外の5人の役員のうち2人は社外。残る3人もローランド出身ではない。

このDG社、現在の時価総額は649億円(5月23日終値ベース)。一方、ローランドの時価総額は445億円。かつてのニッポン放送とフジテレビのような状態になっている。

一方、DGのローランドの帳簿上の価格は29億円なので、DG株の含み益は実に230億円に上る。2014年3月末時点でのローランドの帳簿上の一株純資産は1,969.67円だが、DGの含み益を加味すると3,005円になる。TOB価格はその6割強ということになる。

■ローランド創業者は反対

5月23日の日本経済新聞が、ローランド創業者の梯郁太郎氏がMBOに反対していることを報じている。梯氏はローランドの筆頭株主・ローランド芸術文化推進財団の理事長を務めており、梯氏が反対すれば財団がTOBに応募することもなくなる。財団の保有割合は9.8%だからなのか、三木代表は財団が応じなくてもTOBは成立すると発言している。

だが、タイヨウはローランド株を9%しか持っていない上に、ローランドには突出した大株主がいない。そもそも筆頭株主と話が付いていない中でのMBO強行というのはなんともアバウトな印象を受けてしまう。

記事を見る限り、タイヨウ主導では経営がよくならないというのが梯氏の反対理由だそうだが、民間企業がさしたる理由もなくこの価格でやすやすと売却したら、経営者は責任を問われかねない。

タイヨウはDG株もローランド株とほぼ同時期に買い始め、現在の保有割合は10.7%。

今回のTOB開始と同時にDGはローランド保有の40%のうち、ちょうど半数を取得するため、発行済みの22%を上限とする自己株取得のTOBを開始しており、必要資金130億円は全額りそなからの借り入れでまかなう。実質無借金会社のDGが、借金をして自己株取得をするわけで、自己資本比率は4割台に下がってしまう。

■得をするのは…

つまり、ローランドはタイヨウへの嫁入り前に、DG株の半分を現金化してDGから吸い上げるわけだが、MBOが成立してローランドがタイヨウのものになれば、DGにおけるタイヨウの議決権は、現在の10%から一気に37%に上昇する。総会での議決権行使率が75%を割ってくれば、議決権の過半数を越えてくる。

結局のところ得をするのはタイヨウだけ。ローランドの上位株主にはタイヨウ以外にも外資系証券のカストディの名がちらほら登場する。あまりにもわかりやすい含み益に外国人投資家の存在。東宝不動産のスクイーズアウトを彷彿(ほうふつ)とさせる構図だが、何故かローランドの株価はいまだにTOB価格を超えていない。

6月25日のTOB終了まであと1カ月。この間に株価がTOB価格を超えてくれば、たとえMBOが成立しても、その後に強制取得価格に異議を唱える、買い取り価格決定の申し立てが大量に成されることになる。

もっとも、この低いディスカウント率と突出した大株主不在の中で、9%からの買い上げとなると、TOBは成立しないとも考えられる。TOBが成立しないなら、TOB成立後の買い取り価格決定申し立てをにらんで今の水準で株を買ったら損失を抱えることになりかねない。何かと変数が多い今回のMBO。株価動向に注目したい。

ローランドとローランドDGの業績推移

ローランドとローランドDGの業績推移

著者紹介 伊藤 歩(いとう あゆみ)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)
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