特報 TOB価格以上に買われる東宝不動産 買い取り価格決定の申し立て方法

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東宝不動産(8833) 日足

東宝不動産(8833) 日足

1月21日、親会社東宝による公開買い付け期間中の東宝不動産(8833)の株価がついに800円の大台に乗った。東宝不動産の2カ月前の11月21日終値は461円。自民党の政権復帰が決まった昨年12月半ばから、ほかの不動産銘柄同様株価の上昇が始まり、親会社東宝によるTOB(株式公開買い付け)が発表されたのは1月8日の取引終了後。同日の終値は552円だから、〝アベノミクス効果〟によって1カ月半で約2割上昇していたことになる。

今回のTOBは例によって買収者が少数株主を金銭で追い出すキャッシュアウト前提だ。TOB価格の735円のプレミアムは公表当日終値比で3割ちょっと。5割、6割が当たり前の昨今としてはそもそも渋い。しかもこの会社、大昔から持っている賃貸不動産が巨額の含み益を抱えており、含み益を考慮した1株純資産は1500円もある。その半値で少数株主を追い出そうというのはやはりムシが良すぎる。

通常、全部取得の場合はTOB価格に株価が張り付き、それ以上に上昇することはまずないのだが、TOB価格を1割近くも上回るということは、市場はTOB価格が安すぎると言っているとみていい。

長年キャッシュアウトを問題視し、追い出し価格の引き上げ闘争で多くの実績を出している、戦う個人投資家山口三尊氏は、TOB開始と同時に、追い出し価格引き上げ闘争に備えた準備を開始。ご本人のブログ「アドバンテッジ被害牛角株主のブログ」上で共に戦う意思がある投資家を募っている。

東宝不動産は親会社の東宝やそのグループ会社、阪急阪神グループなどの保有株を合計すると7割近くになるので、TOBをやらなくても臨時株主総会で少数株主の追い出し決議はできる。逆に言えば追い出し決議がされないと、少数株主からの強制買い取りも発生しない。この強制買い取り価格を裁判所に決めて貰う手続き(=買い取り価格決定の申し立て)で戦うのだから、追い出し決議がされることは絶対条件だ。

TOB公表後に株を取得した株主でも買い取り価格決定申し立てはできる。過去の司法判断でもTOB公表後に株を取得した株主が「申し立てる資格がない」とされたことはない。当然1単位株主でも申し立てることができる。

それでは具体的にどう戦えばいいのか。まずTOBには応募せず、少数株主の追い出しを議案とする臨時株主総会の招集通知を待つ。招集通知を受け取ったら、議決権行使書の「否」にマルをつけ、自分の手控え用にコピーをとって、行使書そのものは特定記録郵便で会社に送り返す。議決権行使書は内容証明郵便のフォーマットに当てはまらないので内容証明郵便は使えない。特定記録郵便では「会社側に到着した」という証拠にはならないのだが、「出して郵便局が引き受けた」という証拠にはなる。料金は基本料金+160円である。

総会そのものは欠席した方がいい。総会当日に会場で回収する議決権行使書は集計されないでそのままゴミ箱行きになることがほとんど。大株主などの賛成票だけで決議が出来る場合は、総会会場の集計結果は決議に影響を与えないからだ。総会に出るには議決権行使書を事前に送ってしまうと総会会場には当然入れない。どうしても総会に出たい場合は、議案に反対する内容証明郵便を、総会前に会社側に到達するように送っておく必要がある。

このほかに口座を持っている証券会社を通じ、ほふり(証券保管振替機構)から会社側へ、自分の株主情報を提供してもらう「個別株主通知」という手続きが必要になる。会社側に対してあらかじめ「自分はおたくの会社の株主」ですと宣言しておくのである。総会招集通知を送ってくるくらいなのだから、会社は当然その人が株主であることを知っているわけだが、それでもこの手続きをやっておかないと買い取り価格決定の申し立てはできない。

この個別株主通知、有効期限は4週間。買い取り価格決定の申し立て時点で有効でないとだめな上に、手続きには口座がある証券会社に頼んでから10日-半月程度かかる。証券会社の担当者にとっては1銭のトクにもならない仕事なので、依頼はメールでちゃんと証拠を残し、逐次進捗(しんちょく)を担当者に確認して時間切れにならないように心掛けたい。

買い取り価格決定の申し立ては総会決議から20日以内に行わないと受け付けられないので、遅くとも総会開催の10日前くらいまでには個別株主通知の手続きは着手しておくべきだ。

そして問題の申し立てである。申立書に貼る印紙代はわずか1000円だし、申し立て時に裁判所に納付する切手代も4800円で済むが、1単位株主が弁護士を頼んでいたら足が出る。しかもこの分野は経験がない弁護士に頼んだら絶対に勝てない。だからこそ過去のキャッシュアウトでは大半の少数株主が泣き寝入りをしてきたのだが、前述のとおり今回は前出の山口氏が共に戦う株主を募っており、一定の人数が集まれば弁護士を雇える。

山口氏はカネボウやレックスホールディングスの少数株主追い出しの際に訴訟団を形成、そのときに依頼した弁護士からノウハウを吸収。以後は弁護士を雇わないで自分で申立書や準備書面を書いて法廷に立つ本人訴訟に切り替え、TOB価格を上回る買い取り価格決定を何件も勝ち取った実績がある。

ご本人は証券非行被害者救済ボランティアを自称、戦う方法を無償で伝授することをライフワークにしている。

著者紹介 伊藤 歩(いとう あゆみ)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)
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