特報 ファナック経営体制が激変 情報開示姿勢の前進に期待

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12月16日発売の週刊東洋経済が、NC装置世界トップ・ファナックで稲葉清右衛門相談役名誉会長が突如実権を失ったことを報じていることを読者諸氏はご存知だろうか。

ファナック(6954)はもともと富士通のNC部門がスピンアウトして誕生した会社で、清右衛門氏はそのNC部門のリーダーだった。1972年に富士通から独立、76年に上場を果たしており、清右衛門氏は上場前年の75年に専務から社長に昇格。以来この会社を育ててきた中古の祖である。

ファナック(6954) 日足

ファナック(6954) 日足

約20年間にわたって社長、会長を務め、2000年に相談役名誉会長に退いているのだが、その翌年の01年5月に長男の善治氏が代表権ある副社長に就任。善治氏は03年に社長に就任し、現在に至る。

だが、清右衛門氏が実権を善治氏に“世襲”した訳ではなく、子会社に至るまでグループ会社のすべての権限は清右衛門氏に集中。むしろ00年以降、権力は増大したと言われる。その割には稲葉一族の保有株数は少なく、議決権も押さえているというわけではない。有価証券報告書を見る限り、善治氏の保有割合はわずか0.001%だし、清右衛門氏は大量保有報告書も提出していないし、大株主上位10社にも顔を出していない。

もともとファナックは世界トップ企業でありながら、極端に開示に消極的な会社としても有名で、メディアの取材にはまず応じない。清右衛門氏が社長を務めていた時代には、ごくまれにだが清右衛門氏のインタビューが載ることもあったが、00年以降で取材に応じた形跡は文字通り皆無。

四季報の取材にすら応じないので、材料欄にも開示姿勢の悪さを書かれたりもしているし、証券アナリストの取材にも応じないという徹底ぶり。期初に出す業績予想は上期の分のみ。通期は中間の着地後で、配当予想も同様だ。

同社サイトのIR情報には、過去3期分の短信と業績修正、それに配当決定のリリースだけが掲載されていて、有価証券報告書の掲載もないなど、とにかく徹底しているのだ。

そのファナック、グローバルカンパニーゆえからか、外国人持ち株比率は5割を超え、大株主一覧を見ても、筆頭が自己株でそれ以外は海外の年金と思われる外資系金融機関のカストディがずらりと居並ぶ。

年間の売買高も発行済み株式総数の1倍以上は必ず確保しており、流動性は高いし市場の注目度も高い。その会社が証券アナリストの取材にすら応じない訳だから、開示に消極的な点が問題だというならウチの株を買わなきゃいい、ということだとしか思えないスタンスの会社なのだ。

それでも業績が良好なうちは良かったのだろう。配当もきっちり30%の配当性向で出されていた。

12年3月期はスマートフォン向けの小型工作機械が大当たりし、過去最高益を達成したが、翌13年3月期は反動で減収減益に。今年6月にはその懲罰人事と思われる人事が発表され、副社長、専務、常務の全12名がヒラ取に降格になった。おとがめなしは善治氏のみ。その一方で、清右衛門氏の孫である清典氏が入社4年目にして取締役に就任。同族支配強化を批判する報道も出たが、株価への影響はごくわずかだった。

その稲葉帝国に異変が起きたのは今年10月。6月に降格させられていた副社長3人が元の役職に復帰しただけでなく、善治氏しか持っていなかった代表権も与えられた。

さらに驚くべきは、国内7つの子会社で、清右衛門氏が取締役を「解任」されていること。商業登記簿にはそう載っているのだという。

清右衛門氏が実権を失うということは、この会社にとって極めて重大な意味を持つ。この一大スクープ、本来なら他社が追随して大騒ぎになってもいい話なのだが、追随したメディアは皆無。新聞は雑誌メディアのスクープを無視する傾向にあるし、そもそもファナックは取材に一切応じない。コメントで記事を構成できなければ記事にしない、という習性もあるので、追随しないのかもしれない。

だが、株価は明らかに12月13日金曜日から動いている。この記事が掲載された号の発売日は16日月曜日。14日土曜日午後には定期購読者の手元に雑誌が届くが、その前日から株価は動いている。

発売から1週間が経過したので、東洋経済オンラインにも全文が掲載され、タダで読める環境になっている。ヤフーニュースなどへの転載も始まったためか、休み明けの24日前場は前日比540円高の1万9,340円で取引を終了している。

この株価の動きが東洋経済の報道のせいなのだとしたら、市場は明らかに世襲を否定していることになる。

記事では10月以降、社内全体で大きな人事異動が行われていることも報じている。これを機に、長年にわたって続いた取材拒否体制に終止符が打たれることを祈りたい。

ファナックの業績推移 1
売上高 営業利益 当期純利益 総資産 純資産 純資産比率
05/3 330,345 120,210 75,764 799,575 679,008 84.9%
06/3 381,074 140,589 90,437 903,409 774,418 85.7%
07/3 419,560 162,930 106,756 951,664 820,556 86.2%
08/3 468,399 189,564 127,030 1,046,837 911,395 87.1%
09/3 388,271 134,449 97,162 970,441 893,282 92.0%
10/3 253,393 55,024 37,511 891,651 812,657 91.1%
11/3 446,201 189,757 120,155 1,013,000 894,494 88.3%
12/3 538,492 221,834 138,819 1,130,625 985,322 87.1%
13/3 498,395 184,821 120,484 1,219,113 1,094,129 89.7%
14/3計 430,400 147,800 101,000
ファナックの業績推移 2
ROE ROA 配当 配当性向 期末株価 PER PBR
05/3 11.2% 9.5% 45.00 13.3% 6,710 19.8 2.1
06/3 11.7% 10.0% 96.00 22.9% 11,330 27.0 3.1
07/3 13.0% 11.2% 150.00 30.0% 10,970 21.9 2.9
08/3 13.9% 12.1% 183.35 30.0% 9,480 15.5 2.2
09/3 10.9% 10.0% 140.27 30.0% 6,630 14.2 1.6
10/3 4.6% 4.2% 56.33 30.0% 9,920 52.8 2.4
11/3 13.4% 11.9% 184.13 30.0% 12,590 20.5 2.8
12/3 14.1% 12.3% 212.77 30.0% 14,680 20.7 2.9
13/3 11.0% 9.9% 184.68 30.0% 14,490 23.5 2.6
14/3計

※金額は株価は円、株価以外は100万円。PER、PBRは実績ベースで単位は倍

著者紹介 伊藤 歩(いとう あゆみ)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)
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