特報 上場廃止の東宝不動産 異例の買い取り価格決定の申し立て出そろう

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今年の年明け早々に親会社東宝(9602)によるキャッシュアウトを公表、6月に上場を廃止した東宝不動産。TOB(株式公開買い付け)は2月21日に終了したが、応募株数は999万株、発行済み株式総数の17.9%に留まり、もともと東宝が保有していた327万株(発行済みの58.8%)と合計しても76%という、このたぐいのTOBとしては異例の低さとなった。

だが、それでも議決権の3分の2以上が確保できたので、5月24日の定時株主総会で、キャッシュアウトのための追い出し3点セットは難なく決議された。

もっとも、一方的に追い出される株主に唯一認められている権利が、株式の強制買い取り価格に異議を唱える権利である。TOBが公表されたときから、今回のTOB価格に対しては株主から不満の声が上がっていたので、買い取り価格決定の申し立てが、相当数の株主から起こされるであろうということは、当初から予想されていた。

TOB価格の735円は、帳簿上の一株純資産708円は辛うじて上回ってはいたものの、この会社が公表している、賃貸不動産の含み益が1株当たり800円もあったからだ。

つまり、含み益を加味したTOB価格は1,535円だったということなのである。

東宝不動産の株価推移このため、通常ならTOB公表翌日からTOB価格めがけて上昇、数日でTOB価格に貼り付く株価が、一気に800円を超えるところまで上昇。その後もTOB終了まで終値が735円を下回った日はなく、TOB終了後の3月8日終値は935円まで上昇した。

735円を下回るようになったのは、追い出しが決議された株主総会の翌営業日以降。

株式買い取り価格決定の申し立ては、現時点での司法判断では追い出し決議の前までに買い付けている株主なので、総会開催日以降になってようやく735円を下回るようになったということなのだろう。そして6月24日の売買を最後に東宝不動産は上場廃止になり、最終売買日の終値は733円だった。

総会での追い出し決議への反対票は、議決権数で7万9,377個(総議決権割合の14.3%)に上り、そして今回、買い取り価格決定の申し立て人が出そろった。申し立て株数は合計で869万株。この会社の単元株数は100株単位だから、反対票を単純に100倍すると793万株にしかならないが、端株もあるのでこの株数になったということだろう。

最も申し立て株数が多いのが、ハワイ籍のファンド・プロスペクト・アセット・マネジメントのグループ。代表のカーティス・フリーズ氏は日本での投資歴が20年以上という日本株のエキスパート。TOB公表当時からTOB価格の低さを批判していたので、予定通りの申し立てと言える。

戦う個人株主・山口三尊氏は、通常は1人、それも弁護士を立てない本人訴訟で買い取り価格決定を行うのだが、今回は弁護士を立て、なおかつ仲間を集めたので、山口グループの保有株数は155万株になっている。このほか、カストディ口座名義で上位株主に顔を出していたシティバンクの申し立ても順当と言える。

 東宝不動産の株主分布
発行済み株式総数 55,688,795 100%
東宝 42,742,683
自己株 253,000
 支配株主実質保有分計 42,995,683 77.2%
プロスペクト 2,911,600
エフィッシモ 2,774,800
山口グループ 1,551,500
個人株主グループA 600,800
シティバンク 421,800
個人A 217,500
個人株主グループB 117,500
法人A 70,000
個人B 20,200
個人C 5,800
 申し立て株数合計 8,691,500 15.6%
 申し立てをしなかった株数 4,001,612 7.2%

エフィッシモも登場?!

少々目を引くのは旧村上ファンドの流れをくむエフィッシモ。ロイヤルバンクオブカナダトラストのカストディ口座名義の株主が、2013年2月期の有価証券報告書の特定大株主一覧では277万株を保有する第2位株主として登場しており、これが実際にはエフィッシモだったようだ。

通常は買収者がTOBで9割以上の議決権を確保してしまうので、キャッシュアウトで過去にこれほど多くの株主から買い取り価格決定の申し立てを受けたケースはない。

日本経済新聞の取材に対し、東宝不動産の取締役が「手続きに不備はなく、何か言われる価格ではないと思っていたので、提訴に驚いている」とコメントをしたことに対し、「そもそも他人の株を取り上げるのに、手続きさえ適正ならいいというものではない」として山口氏は怒り心頭だ。

実は山口氏はTOB価格を大きく上回る1,000円で東宝不動産の逆買収を提案しているのだが、全く相手にされなかった。つまりは1,000円などという安値で売ってたまるかということなのだ。それなら735円で取り上げられる株主は、どうなるのか。

この欄でも繰り返し取り上げてきたが、日本はTOB価格の根拠を一切開示しないで済むという、極めて買収者に有利な制度がまかり通っている国だ。

第三者に算定させたらこの価格でした、という、結論の部分しか開示しなくていい。「この価格になる評価書を作成してくれ」と言えばいくらでも数字をいじってくれる算定業者は少なくないという。

DCFで評価しましたと言いながら、割引率も収益予想も一切開示しなくていい。こんな一方的な話はない。そもそも制度上適正とされている手続き自体が、とことん株主を軽視した手続きになっているのだ。

今回は知力も資金力もある法人株主が申し立て人に名を連ねている。結果に期待したい。

著者紹介 伊藤 歩(いとう あゆみ)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)
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