特報 業績低迷でも資金潤沢な任天堂 ゲーム会社は第3四半期が勝負

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任天堂(7974) 月足

任天堂(7974) 月足

9月19日、任天堂(7974)中興の祖・山内溥氏が亡くなった。任天堂はこのところ2期連続で営業赤字を出し、社長の岩田聡氏の進退問題がマスコミで取り上げられるという状況だが、冷静にバランスシートを眺めてみると、あらためてこの会社の資金の潤沢ぶりには敬服してしまう。

今回は花札やトランプを作っていた会社を世界的なゲームメーカーに育て上げた名物経営者への哀悼の意を込めて、この会社の尋常成らざる資金の潤沢ぶりを取り上げてみたい。

現在社長を務める岩田氏は2002年に山内氏がスカウトして社長に据えた、言わば“外様”。東京工業大学情報工学科卒の天才プログラマーでありながら、アルバイト先だった創業間もないベンチャー企業・HAL研究所にそのまま就職。そのHAL社が経営危機に陥った際に社長を務めたのが岩田氏で、支援に乗り出したのが任天堂だった、というのが岩田氏と任天堂のなれ初め。

下の表は、岩田氏が社長に就任する2期前から現在に至るまでの業績と財務状況を集計したものだ。

結論から言えば、岩田氏は社長就当時935億円だった純資産を11年間で1.3倍に増やしたのに、株価は当時の半値になってしまったということになる。

14年3月期は1,000億円の営業利益計画で、これを達成できなければ退任するだろうという説を今年6月の株主総会できっぱり否定したため、少々話題になった。

ヒットが出れば天国、出なければ地獄というのがゲーム会社の宿命だし、WiiとDSが大ヒットした08年から10年までの業績が良すぎて、逆に今の悪さが目立つということはある。だが、やはり投資家が気にしているのは、営業利益で黒字が出せていないという点なのだろう。

6,000億円台の売上は05年-06年当時よりも高いのに、当時は出せた営業黒字が前期、前々期では出せなくなった。その最大の理由は売上総利益率の大幅な低下である。

05年-06年当時4割台だった売上総利益率が今や2割台に低下している。従業員は当時の3,000人から現在は5,000人に増えてはいるが、人件費は製造原価ではほとんど増えていなし、販管費でも500億円ほど増えただけ。一方、売上総利益額は05-06年当時から6,000億-7,000億円も減っている。

材料費が倍以上に増えているのに、売上高がそれに見合う伸びを示していないのは、つまるところ単価が取れていないということなのだろう。

損益だけを見ているとこういう話になるのだが、ひとたびバランスシートに目を向けると、やはりこの会社のスゴさを痛感してしまう。四季報にはキャッシュ、つまり現金および現金同等物の残高しか表示されないが、ここには長期性の預金や、国債や金融債などの限りなく預金に近い金融商品が含まれていない。

例えば、13年3月末時点のキャッシュは4,693億円で、この額は08年3月期の半分だ。だが、ここに譲渡性預金や金銭信託、金融債など、有価証券勘定で計上されているものを加えた金融資産の残高となると、1兆円を超える。

総資産の8割以上は換金性が高い金融資産で、しかもその金融資産の総額は年商の1.6倍もある。

金融資産はピークの08年3月期で1兆3,260億円もあったので、その当時から比べると3,200億円ほど目減りしてはいるが、岩田氏が社長を引き継いだ当時と比べればまだ750億円くらい多い。

山内時代は安定配当方針だったが、山内氏が取締役も退任して相談役になった05年3月期以降はほぼ業績連動になった。14年3月期は今のところ260円の配当予想で、現時点での業績予想通りに着地すれば、配当性向は6割程度になる。

9月20日終値は1万1,560円。実績PBR(株価純資産倍率)だと1.2倍で予想PERだと26.8倍。

第1四半期が3期連続で赤字だったため、計画達成を危ぶむ声があるのは確かだが、ゲーム会社はよくも悪くも第3四半期が勝負。前半が好調でもここがコケたら地獄だし、逆にここで一発逆転もあり得る。

ちなみに最新号の四季報独自予想では、営業利益は会社計画よりも200億円高い1,200億円である。

任天堂(7974) 財務状況推移

著者紹介 伊藤 歩(いとう あゆみ)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)
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