米中心に景気回復のモメンタム継続へ グローバルな投資環境と投資戦略(上)

概況


ユーロ圏、日本、新興国は政策的サポートで維持

松本聡一郎氏

松本聡一郎氏

クレディ・スイス証券 プライベート・バンキング本部
CIOジャパン 松本聡一郎氏に聞く

経済環境が世界的に変化を見せているが、投資家の間では、ここからどの国(地域)のどの資産クラスに投資するのが適しているのかに関心が高まっている。そこで市場環境や資産市場の現状と見通しについて、クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部CIOジャパンの松本聡一郎氏に聞いた。

■グローバルな経済環境

アメリカを中心に景気回復のモメンタムは続いているとみている。ただしアメリカが金融緩和から脱却する動きを志向している中で、ユーロ圏や、日本、中国をはじめとした新興国の地域は回復の力がまだそれほど強くないことで継続的に金融緩和などの政策的なサポートがあって回復のモメンタムが維持されているとの見方をしている。また、アメリカのFRB(米連邦準備制度理事会)や、英中銀はイベントリスクがなければ、来年上半期の中で金融緩和から金融引き締めに移れるのではないかと予想している。企業の景況感を表すPMI(購買担当者指数)を見ると、国によって強弱感はあるが、日本・米国・欧州・中国が景気拡大を意味する「50」以上の水準にきている。ユーロ圏はもともとあった古い逆風(デフレ懸念など)と新たな逆風(ウクライナなどの地政学リスクなど)に見舞われて回復のモメンタムに対して阻害する要因もあることで、政策対応が強化される必要がある。

■アメリカ

国別では、アメリカの景気動向は、第1四半期は大雪などの天候要因もありマイナス成長となったが、第2四半期に入って景気回復は順調に進んでおり、企業業績も回復している。その中で注目されているのは期待インフレ率がどの程度になるかということ。その前提として足元の状況を見ると、失業率は6.1%と、バーナンキ前FRB議長時代の政策目標だった6.0%水準まで下がってきているが、注目されているのはその中身、質の問題で、過去に求職活動して現在あきらめている人、フルタイムで働きたいがパートタイマーとして就業している人などを含めた広義の失業率は、以前の水準と比べると高止まりしている。これが一つのネックとなっている。一般的な失業率は改善してきているが、時間当たりの賃金の伸び率は過去のトレンドと比べて戻りが鈍い。潜在的な失業率が所得の回復ペースを少し遅らせている。ここが解消してくれば、期待インフレ率も過去のトレンドラインに戻ってくるとみているが、足元は緩やかなペースで進んでいる。また、与信活動は、リーマン・ショックの後大きくマイナスに振れたが、足元はプラスのゾーンに入って伸び率自体も上ブレしてきている。銀行が民間セクター向けに貸し出しを順調に起こし始めている。これはボジティブなサインと考えている。消費者信用の動向も、四半期ごとの実額の伸びが上ブレして、本来の長期的なトレンドラインにキャッチアップしてきている。これに雇用の本格的な回復が加われば、アメリカの景気回復のトレンドは一時的なものではなく、より自律的な回復局面に入ってくると考えている。

■ユーロ圏

ユーロ圏はコアインフレ率が下方にシフトし、デフレに入るのか入らないのかという状況に直面しつつある。ECB(欧州中央銀行)は緩和的な政策を維持、もしくは強化していかざるを得ない。この背景には失業率の高止まりと設備の稼働の回復が低い水準にとどまっていることがある。ユーロ危機の時にユーロ各国がとった緊縮財政政策の副作用として失業率の上昇や所得の落ち込みで内需を抑制している。また、これまでのユーロの高止まりなどもあって域内の設備稼働率の回復も比較的低い水準にとどまっている。この2つの要因で域内のインフレ圧力が低く抑え込まれている。逆に言えば、デフレ的な圧力がまだ色濃く残っているといえよう。小売売上高が伸びない状態が続いている。緊縮財政政策の影響でもあり、特にスペインやイタリアなどで顕著だ。銀行の貸し出しの伸びも非常に弱い。与信の伸びがマイナスで推移している。ECBは、金融システム自体には大量の資金を供給しているが、その先である金融機関から企業に流動性の供給が及んでいない。欧州周辺国では中小企業向け貸し出し金利が依然高い。一方、財政収支では大きく改善してきている。景況感はフランスを除くと「50」を超えてきているが、景気回復のペースがスローであり、足元は回復に一巡感が出始めている。景気をうまく加速させ、離陸させる、もう一段の作業が必要ではないかとみている。

■中国

中国は、不動産市場の低迷はしばらく続くとみている。景気自体はPMIを見ると第2四半期に若干リバウンドした。的を絞った国内景気対策、消費を刺激するようなインセンティブを与えるようなプログラムを発表するなどで腰折れせずに推移している。中国の経済成長は、投資主導から内需主導へと構造改革を行っている中で、過去のような10%を超える成長は難しい。今年は7%台前半、来年も7%前後の成長と予想している。輸出は米景気の回復もあって、底入れから反転増に変わりつつある。小売売上高の伸びは全体ではスローダウンしており、政府による反汚職キャンペーンの影響によるところが大きいとみている。

■日本

日本について4月の消費税引き上げによるセンチメントの悪化は一巡しており、今後は回復していくとみている。消費は弱いとされているが、小売売り上げは前回(1997年)増税時よりも強く回復している。一方、家計調査による支出は前年比で4、5%のマイナスが続いている。これは統計上の問題もあって、当社としては小売売り上げからみて回復の兆しが見えてきているとみている。経常収支は黒字だが、貿易収支は赤字、しかし、その中身は主に原油輸入量の増加と原油などの価格上昇によるもの。政府は原発の再稼働に取り組んでいるが、それいかんによっては大きな赤字は今後若干和らぐだろう。労働市場のひっ迫は続くだろう。これにより総所得へはポジティブな影響を与え始めている。ボーナスや時給、残業代のアップでトータルな収入は上昇してきている。もっとも、インフレ率の上昇より低い伸びだ。また、ベース給与の伸びはまだ十分に回復してきていない。消費が想定している水準よりは順調に回復することと、企業の設備投資の伸びが計画通り加速すれば、日本の景気は好転すると考えている。日本の実質金利がマイナスに突入しているだけに、企業も積み上がったキャッシュフローを何らかの投資に振り向けざるを得ない。企業の経営者はキャッシュの有効な活用方法として、M&A(企業合併・買収)や設備投資、株主還元の一環として自社株買いや配当を増やすなどの方向に行動が移っていくだろう。

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