新興国は“課題山積み”も、マーケット“心理”に変化の兆し HSBCアジア経済・通貨セミナー

概況


ポール・マッケル氏

ポール・マッケル氏

かつてマーケットの主役だった新興国に試練が続いている。1月23日には通貨当局が為替介入を見送ったことでアルゼンチン・ペソが急落。これをきっかけに新興国通貨のみならず、先進国の株式市場も下落して「世界同時株安」が意識される場面もあった。とりわけ新興国での運用に強みを持つHSBCは1月14日「アジア経済・通貨セミナー」を開催しており、今回はその内容から新興国投資のヒントを抽出する。

第1部 アジア為替相場の見通し

HSBC調査部マネージング・ダイレクター兼アジア通貨リサーチ統括
ポール・マッケル氏

アジア通貨は2013年にFRB(米連邦準備制度理事会)の行動、あるいは自国のファンダメンタルズの弱さといった要因から軟調推移が続いたが、14年も引き続き多くの課題を抱えている。

図1

図1

資産相関の崩壊、そして新展開へ

リーマン・ショックや欧州危機を契機に、資産の相関関係が崩れてしまった。前代未聞といわれる緩和策が世界規模で続けられて、市場に過剰な流動性が提供されたためだが、この先は米国が間もなく緩和縮小に転じることが見込まれており、相関性は05-06年ごろの状態を取り戻すと考えられる。

既にその証左が見え始めている。これまでマーケットでは恐怖が起こると“有事のドル買い”が見られた。ユーロ危機の際にも米ドルが買われる一方で、米国債の利回りは低下したが、現在は差し迫った危機が見当たらないにもかかわらず米ドルが買われている。同時に米国債の利回りも上昇、これはマーケット関係者の“心理”が変化したことを表している(図1)。

図2

図2

このようなマーケット心理はとりわけ脆弱(ぜいじゃく)なアジア通貨にとって、14年も大きな影響を与えるだろう。米国債の利回りと、「フラジャイル・ファイブ(脆弱な5カ国)」と呼ばれるブラジル、インドネシア、インド、トルコ、南アフリカの動きは明らかに相関を強めており、引き続き米国経済の成長見込みに対して過敏に反応することが予想される(図2)。

新興国資本は味方か、敵か?

果たしてわれわれは14年の新興国に投資をしてもよいのだろうか? ちなみに13年に軟調だった韓国、マレーシア、インドネシア、タイ4カ国の国債の外国人保有比率には近年、大きな変化は見られない(図3)。つまり、欧米の危機、あるいは緩和策縮小のアナウンスなどにかかわらず、大きな資金流出は起こっていないことが推測される。

図3

図3

とはいえ通貨安は該当国への投資資産を毀損するため、そのあたりが引き続きアジア投資を考える上での重要なテーマになりそうだ。

アジア通貨はおおむね同様の動きを見せるが、各国のファンダメンタルズはさまざま。マレーシアは大きな経常黒字を持ち、そうでない国であっても、政府が燃料や食糧品などについて手厚い補助金を支払うケースも。そしてインド、インドネシアなどの経常赤字国の一部では、既に補助金額を縮小に転じさせている。われわれはアジア通貨の健全性を見る上で、外貨準備高が対外収支に占める割合に着目しているが、足元では外貨準備高を積み増すなどして改善が続いている。

フレドリック・ニューマン氏

フレドリック・ニューマン氏

第2部 アジア経済の見通し

HSBC調査部アジア経済調査部門マネージング・ダイレクター
フレドリック・ニューマン氏

ファンダメンタルズは依然、良好

アジア新興国の鉱工業生産は過去最高水準に。08年リーマン・ショック時のピークを50%ほど上回っている。そもそも08年危機後の低迷からも、わずか9カ月ほどで立ち直っており、一方で、米国はいまだにピークから2%ほど、欧州は14%ほども下回った状態にある。

つまり、アジアは欧米が低迷する中で堅調推移を続けているわけだが、問題はこの伸びが今後も持続可能かどうか、という点にある。

図4

図4

残念ながらわれわれは「NO」と考える。アジアの成長は「貸出」によるもので、日本を除くアジアでは銀行貸出残高の対GDP(国内総生産)比率は足元で107%ほどと、1997年のアジア金融危機時の101%ほどを上回っている(図4)。そして95年に「貸出残高の急増は危機を生み出す」と警鐘を鳴らしたポール・クルーグマン氏の指摘の通り、アジアはその後、バブル崩壊を迎えた。そして現在は当時と似通った状況にある。

とはいえ「破たん」の可能性は低いとみる。金利は世界的にも低水準で、欧州と日本では緩和策が当面継続される見通しだ。しかし、3-5年内のどこかの時点で欧州も日本も資本供給をストップして、金利は上昇に転じるとみられる。

2014年も金利は安定推移が続くだろう。既に3%台にのった米国債の利回りが150ベーシスポイント以上も上昇する可能性は低いと考える。アジアはこの“猶予期間”のうちに構造改革を進めて企業が生産性を高めることで、来るべき危機を乗り越える準備をするべき。

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